青いばら

三食団子

【プロローグ】「月がきれいですね」


 深海優姫ふかみゆうきといえば、とそのクラスメイトに訊くとしたら、十中八九大半の人間が「元気だ」とか「明るい」とか「優しい」とか「頭がいい」なんて言葉を口にすると思う。


 もちろん僕もその意見に異論はない。というか、僕ごときスクールカーストにおける一般生徒以下の存在に何を言われても、彼女の評価は今更覆ることなどないのだ。


 明朗快活。公明正大。品行方正。成績優秀。


 彼女に対する周囲の人間の評価は、おおむねそんなところだろう。教師を含む誰もが彼女を讃え、あるものは「彼女は現代に生きる我々の罪を贖うために遣わされた」とまで言った。惜しむらくは、おおむねとは言っても彼女の胸部はあまり豊かでないことか。


 まあつまり、こんなとばっちりみたいな形をとって、初めて彼女を貶められる。裏を返せば、彼女はいわゆる完璧超人だったということだ。テストというテストで首位に鎮座するのはもちろんのこと、中学では陸上部に所属していたらしいから運動神経も良く、それでいて少しも驕った様子もなく皆と接する姿は完璧の二文字にこそ相応しい。


 では僕、遠藤柊二えんどうしゅうじは、と尋ねれば、十中十全員が口を揃えていうだろう。「よく知らない」と。少なくとも、一昨年までは確実にそうだったといえる。なにしろ去年のはじめに実施された自己紹介では、僕の番が飛ばされるという事態になった(一つ後ろの出席番号の大野おおのとかいうやつが、平然と飛ばしてきた。多分緊張していたのと、僕の自己紹介は終わったと勘違いしていたのだろう)。


 無口。地味。


 どんなに時間を費やしたところで、僕のクラスメイトからはこれ以上の情報を手に入れることなどできないだろう。だから彼女が僕に話しかけてきて、あまつさえ僕の趣味を把握していた理由など知るよしもない。


 まあ、知ってるんだけど。

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