バイト先の後輩に告白された時の正しい返事を教えてください
とりあえず 鳴
第1話 告白①
「ずっと前から好きでした、私と付き合ってください」
セリフ自体はよく聞くものだが、実際に聞いたのは初めてだ。
バイト終わりにそれなりに仲のいい後輩の女の子と話していて、夜も遅くなっていたからいつものように家の近くまで送っていた。
そしてなぜか「ちょっとだけ寄り道しませんか?」と言われて肌寒くなってきた中、近くの公園に向かった。
誰もいない公園に入っていきなり立ち止まったと思ったら、生まれて初めての告白をされた。
(さて、どうしたものか)
告白をしてきたのは半年ぐらい前に俺、
容姿が整っていて「可愛い子が入ってきた」と、噂になっていた。
そんな子が俺に告白なんてどういうつもりなのか。
「えっと、悠夜さんは恋人がいたりしますか?」
「恋人いない歴イコール年齢ってやつ」
「良かったって言っていいのかわからないですけど、良かったです」
珠唯さんがホッとしたような顔をする。
ちなみに名前呼びなのはバイト先に「島田」という名字がもう一人いるからだ。
もう一つちなみにだが、珠唯さんを『珠唯さん』と呼んだことはない。
羞恥心の関係で。
「それで、えっと、私では駄目ですか?」
「駄目とかはない。ただ、困惑中?」
正直珠唯さんが俺に告白をする意味がわからない。
確かに俺は珠唯さんとよく話をしたりする。
ほとんどが、まあ九割九分が珠唯さんから話しかけられてだけど、それでも俺からしたらよく話す方だ。
何せ俺に話しかけてくる人はほとんど主婦さんで、学生からは話しかけられることはあるけど、ほとんどが仕事について。
だけど思い返せば珠唯さんは俺と『会話』をしていたと思う。
「困惑っていうのは、私を恋人にしてもいいかもって思ってくれてるってことですか?」
「俺からしたら高嶺の花だから困惑してるって話。あなたなら俺なんかよりもいい人と付き合えるでしょ?」
正直俺を好きというのが信じられない。
俺は今年で
そんな将来性もない俺のことを好きになるなんておかしい。
もしかしたら俺がこの告白を受けたら「あれ? 本気にしました?」とか言われるかもしれない。
まあ珠唯さんがそんなことをしないのはわかっているけど。
「実際あなた高一でしょ? 学校にいい人とかはいないの?」
「いません。私が好きなのは悠夜さんです」
「キッパリ言われると恥ずかしいんだけど?」
「やっぱり私なんかじゃ駄目ですか……?」
珠唯さんがしゅんと落ち込む。
俺は珠唯さんにそんな顔をさせたかったわけじゃないはずだ。
「ひねくれ者でごめん」
「いえ、そういうところも好きなので」
「俺のどこがいいのか」
「え、語っていいですか?」
「お手柔らかに」
「まずですね、優しいところです。私だけじゃなくて、誰かが困ってたら何も言わずに手伝ってくれたり、私が失敗して落ち込んでる時にずっと一緒に居てくれて、私が少し立ち直って謝ったら『別にあれぐらい誰でもやるよ?』って私が気にしないように軽く言ってくれたり──」
「よし、わかった。もうやめよう」
なんか想像以上に語り出してどう反応すればいいのかわからなくなった。
というか別に俺は優しくない。
新人が困ってたら手伝うのは当たり前だし、珠唯さんが落ち込んでる時に一緒に居るだけなら誰にでもできる。
それに実際誰もがやるようなミスだったので気にする必要がないものだったし。
「わかりました。じゃあ『優しい』に関しては終わりにします」
「おい待て」
「次はかっこいいところにしますか」
「もういいから」
「まずですね、お顔がいいですよね。私の好みどストライクです。それに仕事中の真剣な表情なんて見惚れて手が止まっちゃいますもん。それとさっきの『優しい』と繋がりますけど、私が困ってる時にサッと解決して帰って行く姿なんてもう──」
「うん、ほんとにやめて、色々と死ぬ」
今日の珠唯さんは少しおかしい。
いつもならもっとのほほんとした会話をしてるのに、今日、というか今は怒涛だ。
だけどやっぱり内容はわからない。
顔はお前が言うなだし、見惚れるのはこっちも同じだ。
それに助けてるつもりはないし、むしろその後の「ありがとうございます」からの珠唯さんの笑顔の方がやばい。
「十分にわかったらもうやめてね」
「でもまだ可愛いところとか、お茶目なところとか色々あるんですけど」
「大丈夫。あなたの気持ちは十分に伝わりました」
なんか珠唯さんは満足いってないようだけど、これ以上は俺がもたない。
だけど珠唯さんは不完全燃焼のような顔になっている。
可愛い。
「可愛い?」
「お、聞きますか? 悠夜さんの可愛いところ」
「聞かないから。そうじゃなくて、あなたを可愛いって思ったの」
「へ?」
珠唯さんがポカンという顔になる。
うん、やっぱり可愛い。
「思い返してみたら、俺もあなたのことを『可愛い』って思うことが多々あった気がする」
「そ、そうなんですか!?」
「夜遅いんだから静かにね」
「す、すいません」
時間はもう九時になろうかというところなので、大声を出したら迷惑になる。
それを伝えると、珠唯さんは自分の口を手で押さえた。
(やっぱり可愛いよな?)
多分知らない女子がこんなことをしていたらあざとすぎて関わり合いになりたくないだろうけど、珠唯さんを見てると『可愛い』しか出てこない。
半年という短い付き合いだけど、これが珠唯さんの素なのがわかるからだろうか。
「えっと、悠夜さんは私のことを、その……」
「可愛いと思ってる」
「う、嬉しいです!」
珠唯さんが笑顔で言うと、すぐにハッとなって口を押さえる。
「いやさ、そもそもの話、あなたは可愛いよ?」
俺が理解しなくても、バイト先の学生達も珠唯さんを可愛いと言ってるわけで、今更可愛いことが発覚してもわかりきったことなはずだ。
「悠夜さんに言われるから嬉しいんじゃないですか。悠夜さんって、私以外の女の子が困ってても当たり前に助けてますけど、私を含めて下心とかないじゃないですか」
「そりゃね。何かに困ってて俺が手伝えることなら普通手伝うでしょ?」
「男の人が女の子を助ける時に、悠夜さんみたいな『当たり前だから』で助けられる人ってそんなにいないですよ? そもそも助けないか、それかいい所を見せたいからなんです」
ちょっと偏見が過ぎる気もするけど、言われて納得する自分もいる。
バイト先にいる同年代の男は、男には当たりが強いけど、女子には気持ち悪いぐらいに優しい。
そして何かにつけて話しかけている。
「そうか、あなたも被害者か」
「特に何かされたわけでもないですよ? 悠夜さんがさりげなく助けてくれますし」
「多分俺が助けてるんじゃなくて、あいつが俺のこと嫌いだから避けてるだけでしょ」
現に俺は珠唯さんがそいつに絡まれてる現場を見ていない。
俺達はお互いに嫌い合っているから、本当にめったなことがない限りは話さないし、それを店長達も知ってるから近づけないようにしてくれている。
「まあ何かあったら言いなさいよ?」
「何かなくても言っていいですか?」
「何を?」
「何でもです。私の恋愛相談に乗って欲しいです。例えば好きな先輩に告白したのに話を逸らしてばっかりだって愚痴とか」
珠唯さんはそう言ってジト目で俺を睨んでくる。
さすがに話が逸れすぎたようだ。
「じゃあ話を整理しようか。あなたは俺のことが本当に好きなの?」
「はい。私の全てにかけて」
「重いよ。嬉しいけど」
「嬉しいって言われるのが嬉しいです」
いちいち反応が可愛い。
なんだかまるで……
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