第8話 拾ったキャンパスは…
先日の健康診断の帰りのヴェーラさんとの会話が未だに僕の脳裏に張り付いている。
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それは健康診断の帰りの事だった。
路地に入った途端ヴェーラさんが両手首を掴みながら僕を壁に押し付ける。
「ねぇシオくん?君、自分が何をしてるか分かってる?」
疲労と驚きで言葉が出ない。少し身体も震えている。嫌な記憶が段々と脳みそを支配していく。
「ごめんごめん、脅すつもりはないの。ただ君はもう少し自分が何をやっているか分かった方がいい。」
両手首を離された僕は身体の力が抜けてしまい地面にへたりこんでしまった。
ヴェーラさんは慣れた手つきでタバコに火をつけ僕の隣にもたれ掛かる。
「誰かから魔法と魔術について聞いたことはある?」
「うん、僕が使ってるのは魔法で、それが希少ってことは一応……」
「じゃあもう少し踏み込んで。
シオくん、あれ、どこで身につけた?」
「わ…分かんない、いつの間にか使えるようになってた……」
「はぁ、ますます怒れないじゃん。ハッキリ言うね。シオくんの使っているあの魔法はいわゆる神聖魔法の類。
治癒魔法とも違う。
この辺だとアンデルセン神父みたいな超がつく上級の神官が扱う門外不出の魔法だよ。
もしあれを神官や神官騎士に見つかったら大変なことになる。」
「どうなるの?」
「確実に殺される。あそこはそういうところだからね。才能がありすぎるやつ、上を脅かすやつはいつだってそうなる運命なんだ。」
「それとねシオくん。君診察のとき魔力を流して身体の弱い所を探してたろ。」
「うん……」
「あれは禁術ってやつだよ。」
「は?……なんでよ…」
「あの魔法の本当の使い方は『病の処方』だ。身体の弱っている所を探し劣化した、あるいは歪んだ魔力を送り込むことで病を意図的に引き起こす外道の魔法だ。」
「え…………」
「大丈夫、君はまだ子供だ。その力を正しく使う術を身に付ければいいんだよ。まぁまずは治癒魔術からだね。大丈夫、魔法が使える君なら一瞬だよ。大丈夫、君は大丈夫だ。」
そう言いながらヴェーラさんは長い間僕を後ろから抱きしめ続けた。
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最近ウチに加わった少年シオくん。なんでもとても腕の良い治癒士らしい。特に再生や解毒に優れていて教会から客を奪っているだとか。いい気味ね。
新しい仕事で組むことになり顔合わせでまぁびっくり。シャノとつるんでギャンブルや荒事に突っ込む話をよく聞くからもっと荒っぽい子だと思っていた。目の前にいるのは小さい少年。幼くて純粋で私なんかが触って穢れないか心配だ。
実益と趣味で触ってみた感じこの辺の子じゃない。恐らくもっと遠い所……違う大陸の血ね。この骨格の感じ、少なくとも私は見たことがない。似た人種は見たことあるけどその子とは顔の造りが違う。個人差?いえ、それ以前の違いね。喉仏や肩や腰の骨の感じからもう成長期は迎えていて、それなりに時間が経っている?ハーフリングなどの血が混ざっている可能性……いえ、手足は完璧に人族そのものだから却下。やっぱり流れの子かしら。それとも奴隷商あたりから逃げ出した、或いはその子供か……
にしても可愛い顔してるわね〜
嫌になっちゃう、職業病ね。怪しすぎて逆に怪しくないわ。
はぁ怪しくないって言葉、撤回するわね。何なのよあの子。めちゃくちゃ重要な祭事でしか見れないような神聖魔法を連発するんじゃないわよ全く。完全に度が過ぎた代物ね。水を飲むために湖を1つ干上がらせるようなものよ。それにあの魔力量尋常じゃない。それに加え禁術。全くどこに埋まってたのよあんな子。
幸いなのは穏やかな気質と素直な性格。ただ演技の可能性も考慮して少し詰めてみようかしら。
………………
失敗ね。あの目、怯え方。暴力に晒されて育ったのね。タバコへの恐怖も。性知識にしてもシャノあたりに吹き込まれたと思ってたけど………恐らく性虐待……触診の嫌悪感の向け方からまさかとは思ったけど……
身体に火傷や裂傷の跡は無かった…そりゃ治すわよね……そもそも傷が原因で魔法が発現?………有り得ない話じゃないわ……圧倒的魔力量に方向は違えど独力で禁術に辿り着く外道魔法のセンス……はぁ、やっぱり神様は居ないのね…………
そして普段の落ち着きよう、あの社交性………
1人の冒険者と生活しているらしいけど安心できる場所を見つけたのね……………
シオくん、それは依存よ……
でもそのおかげで安定はしている。
もしその牙城が崩れたら…………いえ、その先はいけないわ。
それよりまずは治癒術の基礎からね。
この子は汚されたキャンパス。
だけれどまだまだ多くの余白を残している。
誰かに、或いは自分で塗りつぶす前に…………
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