第37話
僕は病院に着くなり、田中先生から貰った番号の部屋へと飛び込んだ。
「佐藤!」
僕が扉を開けると、そこには、ベットに横になっている佐藤の姿と、その横で座っている一人の女性の姿があった。
「あなたは……?」
その女性は驚いた様子でこちらに振り向いた。佐藤の面影があるこの女性はきっと、佐藤のお母さんだろう。彼女の頬には、涙が通った跡がくっきりと残っていた。
「僕は、写真部の柿崎壮太と言います。佐藤さんは、写真部の唯一の後輩で、写真も佐藤から教わったんです」
「ああ、君が、あの……」
佐藤のお母さんは僕のことを上から下まで、じっくりと見ていた。
「あの、僕なんかしました?」
思わず聞いてしまった。すると、佐藤のお母さん焦った様子で「いやいや」と両手を振る。
「改めて、私は、佐藤真優、美優のお母さんです」
挨拶が済むと、美優さんは、僕に深々と頭を下げた。僕はその様子を見て、自分の行動を恥じた。娘が死んで、それどころではないはずなのに、僕のような高校生にも、きちんと挨拶をして、真優さんはちゃんと現実を受け止めてる。それに比べて僕は……、いや、まだだ。
「すみません。僕も焦ってちゃんと挨拶出来なくて。こちらも改めて、写真部の柿崎壮太です。よろしくお願います」
僕も深々と頭を下げる。
「なんだか気を使わせたみたいでごめんなさいね」
そう言って少し笑った真優さんに僕は安心する。
「いやいや、そんなことないです」
僕が佐藤、いや、美優に視線を戻すと、つられるように、真優さんの視線も美優に戻る。
「美優さん、本当に死んじゃったんですか?」
「ええ、もともと、心臓の病気だったの。だから仕方ないのよ」
「そう、ですか」
もう心臓が動いていない佐藤の顔はまるで昼寝をしているみたいで、揺らせば、起きそうなぐらいだった。でも、もう……起きることはないんだよな。
「あ、そうだ、写真部の先輩が来たら渡してって言われてた物があったんだ」
真優はそう言って、カバンの中をゴソゴソと漁る。
「そう、これこれ」
真優が取り出してきたのは、一冊の日記だった。
「私は読んじゃダメって言われてるから、中身知らないけど、きっと大事なものだと思うから、大切にしてね」
「……はい、わかりました」
日記を今ここで読むと、美優に怒られそうな気がしたので、家に帰って読むことにして、バッグにしまった。
「学校はいいの?」
「はい、今日は早退してきました」
「そっか、じゃあ、少しお話に付き合ってくれる?」
「はいもちろんです」
今は、少しでも現実から目を背けていたかった。
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