クラスの隣の席の女子、サ終したネトゲの元プレイヤーでしかも一緒に遊んでいたフレンドでだったのでリアルでも友達になりました。

綾瀬桂樹

第1話 サービス終了とかつての相方

 「一颯いぶき! いつまで寝てるのいい加減に起きなさい!」


 突如遠くから聞こえてきた自分の名前に反応して目が覚めた。

 目の前には大型のディスプレイ。そこに映し出されているのは……


 『0:00をもちましてサービスを終了いたしました。 長らくのご愛好ありがとうございました』

 と書かれたゲーム画面が映し出されていた。

 目の前にディスプレイがあるってことは座ったまま寝ていたようだ。

 そう思うと背中が痛くなってきた。


 「一颯起きなさい……って起きてたなら返事しなさいよ、まったく卒業式迎えてからこんな調子じゃない、高校生活始まる前に直しておきなさいよ」


 ドアを勢いよく開けて入ってきたのは母親で、その手にはスティック型の掃除機が握られていた。

 掃除機かけるのが早くないかと思ったが、PCの設定された時間を見ると正午間近だった。

 

 「掃除機かけたら洗濯機まわすからそれまでに着替えちゃって。 あと台所にお昼作ってあるからさっさと食べちゃって」

 「……わかったよ」


 大きなあくびをしながら部屋から出ていった直後に掃除機をかける音が聞こえてきた。

 今のうちに諸々済ませておくかな。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「お母さん仕事に行ってくるから、留守番お願いね! それと高校から書類が来てたから確認しておきなさいよ」


 掃除と洗濯を済ませた母親が必要なことだけ伝えると、急いで家を出て行った。

 仕事というのは近所にあるスーパーのパートだ。

 家にずっといるのも暇だし、自分の趣味に使えるお金がほしいとかで行っていたな。


 「そういや、高校からの書類が来てるとか言ってたっけ」


 使った食器を片付けてから、母親に言われたことを思い出しリビングの郵便物をまとめている引き出しを開けると大きな茶色い封筒が目についた。

 宛先を見ると『藤阪一颯ふじさかいぶき 様』と書かれている。


 開けて中身を確認すると、入学式の時に必要なものや当日の流れなど書かれた紙が入っていた。


 「入学式までまだあるし、後で見ておくか」


 封筒をもう一度引き出しの中にしまい、そのまま自分の部屋へ戻りPCを起動させ、いつものゲームを起動させるが……。

 

 「……もしかしたらと思ったけど、ダメか」


 ディスプレイには 『0:00をもちましてサービスを終了いたしました。 長らくのご愛好ありがとうございました』

 と今の俺にとっては無慈悲とも思える画面が表示されていた。

 

 起動しようとしていたのは『ドラグーンファンタシー・オンライン』というゲームで俗にいうネットゲーで通称『DPO』と呼ばれていたゲームだ。

 運営期間が10年を超えているということで、グラフィックやシステムが古い部類にも入り、初心者向けネットゲーとも呼ばれていた。

 それもあってか、今までネットゲーに触れてこなかったユーザー、特に女性が多いと言われていた。

 

 古さゆえに最新のゲームに流れていくユーザーもいたようで、それが原因なのか定かではないがサービス終了が発表された。

 そして、本日の日付変更と同時に終了になった。


 やることもなかったのでスマホでツブヤキったーアプリを起動させるとトレンドの中に『DPOサ終』という項目が目に入り、ログインできないのは自分だけではなかったかと、本当にDPOが終わったことを実感してしまう。


 「結局あのキャラの中身に関しては知らずに終わったな」


 ツブヤキったーを眺めているうちにとある人物のことを思い出していた。

 人物というかキャラといった方が的確かもしれない。あくまでネットゲーム上での付き合いだし。


 その人物?キャラの名前は『イリス』と言って回復に特化したプリーストという職業のキャラだった。

 自分がHPを犠牲にしてダメージを増加させるダークナイトのキャラ。

 そのため、回復したキャラがいるとHPの回復のことを考えなくて済むのでプレイしやすかった。

 

 どちらの職業も一部分に特化しているせいか、互いに協力できないとまともにプレイできない。

 最新のゲームでは職業を頻繁に変更できるが、DPOは古いゲームのせいか、一度職業を決めると変更することができない仕様。


 「今考えればイリスとの出会いは偶然だったな……」


 たしかイリスとの出会いは彼女がモンスターに襲われているところだった。

 その時はモンスターを一掃し、回復アイテムで回復してあげた。


 『ありがとうございます……! えっと、お名前はアッシュさんっていうんですね!』


 キャラ名が上に表示されているので、キャラ名を言われることに驚きはなかった。

 俺もそれを見て、目の前のキャラが『イリス』であることを知ったわけだし。

 立ち上がった姿を見ると、ロングヘアーの金髪に白を貴重とした、誰もが思い描く清楚を形にしたような姿だった。


 『フレンドのダークナイトさんといたんですが、回復のタイミングが合わせることができなくて置いていかれました……』


 プリーストの存在意義は相手の回復タイミングに合わせられるかによって決まっていると言われていた。

 相手がダークナイトであれば尚更のことだ。

 そして、プリーストは回復に特化しているためか、ソロでの戦闘はほぼできないに等しい。

 出会った場所はそこそこモンスターのレベルが高いエリアのため、嫌がらせを兼ねてここに置いて行ったのだろう。


 自分も最近、仲間のプリーストに裏切られたからこの時のイリスの気持ちが痛いほどわかっていた。

 

 『……それならちょっと付き合ってくれない?』


 だからイリスに声をかけた。

 突然のことなので、断られるとは思ったがイリスの答えは予想外にも『いいですよ!』だった。

 驚きつつもイリスとパーティを組み、目的の場所へと向かった。

 

 『ここってボスエリアですよね?』


 俺たちの目の前にはボスが立ちはだかる。

 イリスには自分のHPが半分以下になったら回復してくれとだけ伝えた。

 裏切られた仲間にもこんな感じでお願いしていたし。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 『……タイミング抜群だ』


 イリスとパーティを組んでボスに挑んだ結果、あっさりと倒すことができた。

 回復もそうだが、攻撃力や防御力を上昇させる魔法のタイミングも絶妙すぎて文句の言いようがなかった。

 

 『ホントですか! ありがとうございます!!』


 チャットを見る限りでもイリスが大喜びをしているのがわかった。

 それにしてもこれだけ回復のタイミングを知ってる人を捨てるなんて勿体なさすぎる。


 『あの、アッシュさん!』

 

 ボスが落としたアイテムを拾っているとイリスからのチャットが来ていることに気づいた。


 『どうしました?』


 ボスも倒したから礼を言おうとしてるのかなと思い、お疲れ様とチャットを返そうとすると……


 『よかったら、私とフレンドになってください!』


 すぐにチャットが返ってきた。

 ゲーム内のフレンドのため、あまり考えずに彼女からのフレンド申請を承諾した。


 それからはずっとイリスと行動するようになった。

 互いに弱点をカバーしながら戦うことで、どんな強敵にも勝てることに喜びを感じていた。

 気がつけばイベントでも俺とイリスの上位ユーザーとして君臨することも多くなった。


 『アッシュさん知ってますか! 相方になるとステータスにバフがかかるみたいなんですよ!』

 『今週のアプデで実装されるみたいだな』


 相方というのは現実で言うところの恋人に近い。何故、恋人ではなく相方というのか知らないし、知る必要もないと思っている。

 今まではプレイヤー同士間で行われていたことだったが、要望に応えてシステムとして実装することになったと専用ページに書かれていた。


 『アッシュさん私でよかったら相方になってくれませんか?』


 イリスから来たチャットに当時の俺は釘付けになっていた。

 その時の俺は相方イコール恋人といった印象が強かったし……。


 『まあステータスにバフかかるならいいけどな』

 『ありがとうございます! アッシュさん、これからも末長く宜しくおねがいします!』

 

 相方に関してもあまり考えることなくイリスと相方の関係にもなった。

 だが、その関係は長くは続かなかった。

 彼女と相方になった半年後、ゲームのサービスが終了になったからだ。


 『サービス終了まで1時間切っちゃいましたね……』


 サービス終了が刻々と近づくなか、俺はイリスと一緒にずっといた。

 何するわけもなく、ただ話しているだけ。


 『せっかく可愛い衣装作ったのに見れなくなっちゃいますね……』

 

 DPOはキャラクタークリエイトにも力を入れていたゲームでイリスはよくコスチュームを考えていた。

 俺は興味がなかったのでいつも同じ衣装だった。


 『サービス終了後もスクショは保存できるみたいだけどな』


 ストーリーの必須のところでしかスクショは使ってないので俺には関係のない話だけども。

 こんな感じでイリスと話しているうちにサービス終了を迎えてしまう。


 中にはツブヤキッターやLIMEなどのアプリで連絡先を交換し合う人もいたそうだが、俺はする必要はなかった。

 あくまでイリスとはゲームの中のフレンドであって、現実ではお互い知らない同士の赤の他人だ。

 

 たまにゲーム中で知り合った人にイリスを見て中身、プレイヤーを気にするのもいた。

 つまりは中身も絶対はかわいいに決まってると。

 その都度、俺は興味がないし確実に中身は男だと話していた。


 ——過去の経験から俺と一緒に遊べるような女プレイヤーはいないと思っているからだ。


 「……入学式まで時間もあるし新しいゲーム探すか」

 

 スマホでツブヤキッターのアプリを終了させてからPCを起動してネットの海に潜って行った。


 ==================================

 【あとがき】

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 カクヨムコン10にてラブコメでに参加いたしました!

 受賞目指して頑張りますのでこれからどうぞ、宜しくお願いいたします!


 第2話は18時頃に公開いたします。

 お楽しみに!

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