Le passe d'Raffine ラフィネの過去
第32話 友人
そろそろこの店へやってきてから一年が経とうとしている。
「またシャルロットからの手紙が届いていましたよ。すっかり懐かれていますね。ひょっとすると彼女、君に気があるんじゃありませんか?」
「まさか」
人の心の動きには敏感な自信がある。モルガンおじさんの営んでいたおもちゃ屋さんで働かせてもらっていた際、お客さんがおもちゃに興味を示す瞬間を見逃さずに、接客をしていたせいだろうか。
だからシャルロットが僕に対して気がないのはわかる。彼女は僕を一人の友人として好いてくれているようだ。今まで年の近い友達がいなかったものだから、シャルロットやセルメントといった友人が出来て僕は心から嬉しい。
封筒の中には一生懸命に書かれた文字が連なる数枚に渡る便箋と、一枚の写真が同封されていた。
「おや、素敵な写真じゃありませんか」
チョコレートのお返しで春頃に贈った額縁。そこへ森で動物たちと戯れるシャルロットと僕を描いた絵が入れられていて、壁に掛けられたそれの横にシャルロットが立っている写真だ。
「シャルロットは絵の才を引き継いだようですね」
「彼女のお姉さんの方は音楽の才に恵まれたようです。お父様も確か物書きで、素敵な芸術一家ですよね」
シャルロットのお姉さん――クロシェットさんとはこれまで一度も会ったことがない。けれどシャルロットが店に訪れた時やこうして届く手紙でよく彼女について話し聞かせてくれる。お姉さんのことが大好きなことが伝わって来て微笑ましい。
シャルロットの話によれば、クロシェットさんは幼い頃から様々な楽器を習っているそうだ。中でも特に、最初に手にしたヴァイオリンの演奏の腕前が素晴らしく、それはプロにも引けを取らないほどだとか。
演奏を聴いている者の心は澄み渡った泉のように安らぎ、明るい旋律に波紋を作っては飛び跳ねる雨の雫のように踊り出したくなるような楽しい旋律を奏でると巷では有名だそうだ。
「そういえば演奏会、お誘いいただいていませんでしたか。今日は暇を差し上げるので、行って来たらどうです?」
「行って来たらどうですって…ラフィネさんも行くんですよ」
驚いた表情をしているが、シャルロットは彼にも声をかけている。森で見つけて拾って来た動物の骨をどんな作品にするか考えるのに夢中で彼女の話に適当に相槌を打っていたことを僕はちゃんと覚えている。
「おや、そうでしたか。では今日は店を閉めて、演奏会へ向かいましょう。作品作りにはインプットも大切ですから」
珍しく乗り気のようだ。作品作りのためだからだろう。
屋敷にこもりっきりで作品作りをしていることがほとんどなのではと思っていたが、思っていたよりはラフィネさんも外出をする。人並みと言うには外出の頻度は少ないが、作品作りがアウトプットなら外出して刺激を得ることがインプットになるのだと、買い物以外にも時々外出することがある。
昔は一人で出かけていたと聞くが、今では僕も連れて行ってくれる。屋敷を開けすぎると依頼を受けることも出来ないため死活問題になってしまうからと、あまり遠出は出来ないけれど生まれ育った町しか知らない僕にはどこへ行ったとしても何もかもが新鮮だった。
「演奏会は…」
「パトリシアさんの屋敷のそば、自然に囲まれた屋外の会場だそうですよ」
「なら歩いて向かえますね」
ラフィネさんは散歩が好きだ。よく足を止めるから、目的地へ到着したい時間が決まっている時にはかなり余裕をもって店を出なければならない。
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