第24話 計算通り

 その時、何やらその氷壁の裏で氷を砕く音がした。

 気になって裏へ回ると、氷を砕いているのは同業の黒髪のシルエットではなかった。半魔法使いはみんな例外なく髪が黒く、その艶やかな色は魔法使いには見られない色だったため、それが半魔法使いの判別に使われているのだ。

 しかしそこにいる者の頭髪は黒くなかった。どこぞの魔法使いが人目を避けてわざわざこんなところで邪魔者を消しているのだろう。



『ッ…ラフィネ』



転がって来た頭部を拾う。それはよく見知ったジョルジュのものだった。

 仁徳があり味方も多かったが、当の本人は猜疑心が強く誰も信用していないような警戒心の強い男だったので些か驚いた。こんなにあっさり殺されてしまうとは。

 凍結したジョルジュを粉々にしていたのは、何度かジョルジュの仕事先で見かけた彼の好敵手、と言われていた男だった。確か相当汚い手を使うが、一方で家に帰れば娘に溺愛なんだったか。そんな噂を聞いたことがあった気がする。



『お久しぶりですね。はい、これを』



ラフィネは悪戯に、ジョルジュの顔を男に向けて頭部を手渡した。



『ご安心を、誰にも言いませんよ。私は彼を利用していただけですし、誰が死んだとか全く興味ないので』



そう言って微笑むラフィネがあまりにも不気味で、その男も口封じに彼を凍らしてしまおうとは思わなかった。



『何をしているんだ?』



氷壁の傍から離れないラフィネに男は怪訝そうに問いかけた。



『何って、見ての通りですよ。彫っているんです。ファントムの仕事はかなりの時間を持て余すので』


『まさか全て?』



ラフィネはここでも例のごとく、今度は石ころではなく陳列された氷、それも全てに異なる模様を刻んで遊んでいた。



『半魔法使いは限られた魔法しか扱えないと聞くが、お前の魔法はこれか』


『…ええ』



男は鼻で嗤う。半魔法使いなど大したことはないな、と。

 気を良くして山を下る男を横目に見送りながらラフィネは小さく笑った。



『チョロい男ですね、可哀想に』



 ラフィネはこの後男がどのように動くか、大体予想がついた。

 男は市民権を得るため元々主張していた打倒半魔法使いという考えを翻し、「力のない半魔法使いに慈悲の心を」というスローガンを掲げ始めた。市民権の多かったジョルジュの掲げていた考えを、今度は自分が提唱したのだ。

 しかし今まで主張していた考えをひっくり返す必要まではなかった。ジョルジュの考えを掲げなくとも、半魔法使いを嫌っている人間は多い。ジョルジュさえいなくなれば、彼は多くの市民権を得て権力を手に入れることが出来ただろう。

 ではなぜそうしなかったのか。それには理由がある。男がラフィネのか弱い魔法を見て同情したから…そう言うには、男を突き動かす動機としては弱い。

 恐らくあの日あの後、男の愛娘の元へラフィネが会いに行ったのが効いたのだろう。年頃の娘だ。ラフィネが自分に気がある素振りを見せれば恋に落ちないわけがない。同時に半魔法使いを差別する父親を責めるだろう。娘に溺愛している男はきっと娘のいいなりだ。

 全てラフィネの計算通りだった。ラフィネが策士なところはジョルジュのやり方を傍で見ていたというのが大きいだろう。

 それに、精密な模様を彫ることが出来るのは特技であって魔法ではない。あれは無力な半魔法使いを演じるために吐いた嘘だった。

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