第32話 素直な気持ち(前編)

☆★☆★ 発売まであと2日 ☆★☆★


『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』が、4月25日発売です。


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大きな書店さんはともかく小さな書店では並んでいない可能性もございます。

ご予約いただくと確実に手に入ると思われますので、

書店へのご予約よろしくお願いします。



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 捕まったゼファさんは牢獄ではなく、まずアリアが座る玉座の前に引っ立てられた。縄を打たれたゼファさんを見た時のアリアの顔には、悲壮感が漂っていた。昔ゼファさんは元『番犬ドーベル』。こうして仲間を縛った姿を見たくはなかっただろう。


 それでもアリアは沙汰を下さなければならない。

 もうアリアは『番犬ドーベル』の団長ではなく、エストリア王国の女王だからだ。


「ゼファ、久しぶりだね」

「よう。アリア、数カ月ぶりってところか。なんか最近調子がいいようじゃないか。食糧問題も解決して、ちょっかいを出してきたセルヴィアの第3王子様も軽く捻ったんだってな。さすが世界一強い女王様だ」

「今日は、随分とお喋りだね。君は確かに『番犬ドーベル』の参謀だったけど、そんなにお喋りな方じゃなかった」

「参謀って仕事はな。軍隊の中では嫌われ物だ。弁が立つことのはいいが、余計なお喋りは自分の首を絞めることになる。『番犬ドーベル』の時は抑えていただけさ」


 さすが『番犬ドーベル』の参謀だ。

 放浪していても、エストリア王国の実情をちゃんと把握しているし、言っていることにも説得力がある。

 アリアが参謀に抜擢しただけはある。


「さて、そろそろ教えてくれないか。ズカズカと人の寝床に押しかけてきて、縄で縛るなんて。ちょっとひどすぎやしないか。こういうプレイは嫌いじゃないけどよ」


 どうやら、こんな状況でも軽口を叩ける度胸まであるらしい。

 ここまで質問をはぐらかされると、さすがのアリアも頭にきたようだ。

 ピンと尻尾を立てて、玉座からゼファさんを睨み付けた。


「本気で言ってるのかい、ゼファ?」

「そんな怖い顔をするなよ。わかった。わかったよ。お金だろ? お前から借りたお金のことだ」

「あのお金は国にとって大事なお金なんだ。そろそろ返してくれないかな?」

「それは……まだちょっと待ってくれないか?」

「約束の期日はとっくに過ぎています。いくらあなたが元『番犬ドーベル』とはいえ」


 アリアとゼファのやりとりを聞いて、マルセラさんも口を挟まずにはいられなかったのだろう。マルセラさんだけじゃない。ここに集まった幹部たちは、すでに殺気立っていた。特にフィオナのキレッぷりがやばい。魔法銃があったら、今頃ゼファさんの頭には風穴が空いていたかもしれない。


「そ、そうだっけか? まだあると思ったんだけど」


 空気に殺気が混じった状態でも、ゼファさんはとぼける。

 並みの人族ならとっくに自白していてもおかしくない。

 ゼファさんの心臓は、鉄――あるいは鋼でも出来ているのだろうか。


「そもそも何を使ったのさ。あんな大金……」


 アリア曰く、学校を建てる資金と言っていたけど、とんでもない金額で間違いない。個人が食いつぶせるような額ではないはずだ。


「実はな。カジノですった」

『はああああああああああああああああああ!』


 みんなの声が揃うと、さらに殺気が濃くなる。

 特に怒りを示していたのは、やはりフィオナだ。

 列から外れると、謁見の間中央で膝立ちになっていたゼファさんに迫る。


「ふざけるなだ。あれはルヴィン様にとって大事なお金だや。そのお金をカジノですっただ? ……アリア。こいつ、縛り首にするだ。いや、銃殺刑がいい。おらが撃ってやるだ。あと、鍋にしてやるだ!」


 フィオナはサラッと怖いことを口にする。

 普段は楚々として、僕の身の回りの世話をしているフィオナだけど、怒ると軍人時代の思考に戻ることがあるらしい。

 あと、なんでもかんでも鍋にしようとするのはやめてくれないかな。


「フィオナ、落ち着いて。ルヴィンくんが見てるよ」

「はっ! し、失礼しましただ、ルヴィン様」


 アリアに諭され、フィオナは慌てて僕の方を向いて頭を下げる。

 その後、アリアは一つ息を吐き、真っ直ぐゼファさんの方を見つめた。


「ゼファ、嘘はよくない。ボクに嘘は通じないことは、君もよく知ってるだろ」


 アリアは耳がいい。それは獣人の中でもトップクラスにだ。

 獣人、人族問わず、心音だけで、感情を読み解くことができる。

 それは僕も知ってるぐらい王宮では周知の事実だ。

 昔の仲間であるゼファさんが知らないわけがないだろう。


「もう1度聞くよ、ゼファ。お金を何に使ったんだい? 君のことだ。私利私欲で使うようなことは絶対にしない。ボクたち困るようなこともね。君なりに訳があるんだろ?」


 アリアは優しくゼファさんに問いかける。

 対するゼファさんは、先ほどまでの弁舌が嘘のように黙ってしまった。

 黙秘します、とでも言うように下を向いて沈黙した。

 1つここでわかることは、やはりゼファさんはカジノでお金をすったりしていないということだ。ちゃんと理由があって、でもアリアに言えない訳があるのだろう。


 元上司にも言えない理由ってなんだろうか。


「ゼファ、何か言ったらどうだ? 御嬢が折角お前を檻にも入れず、弁解の機会を与えてくれたんだぜ。本当なら鞭打ちに処されたっておかしくないはずなんだ」


 見るに見かねて、バラガスさんがゼファさんに近づく。

 優しく問い質したアリアとは違って、その眼光は鋭い。

 一触即発。今にも獣人同士の喧嘩が始まりそうな空気だった。

 ゼファさんは下を向いたまま口を開く。


「鞭打ちでもなんでもしろ。なんなら縛り首でもいい。オレが国の金を横領したことは事実だからな」

「てめぇ! だからその訳を話せって、御嬢は言ってんだよ!」

「断る」

「お前……」



 バラガスさん、待って下さい。

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