第32話 街を守る決意

 蓮華の市に戻ってから数日が過ぎた。玲蘭は、陽翔との試練を乗り越えたことで自信を得たが、それと同時に、もっと自分の力を街の人々のために役立てたいという思いが強くなっていた。


 蓮華の市は活気に溢れる美しい街だったが、治安が良いとは言い切れなかった。玲蘭が盗賊たちを退けた後も、小さな盗難事件や騒ぎが続いていた。商人たちは不安を抱きながらも、日々の生活を営んでいた。


(私はこの街で何ができるだろう……)


 玲蘭は市場を歩きながら、街の人々の様子を観察していた。彼女が目指すのは、この街の平和を守り、困っている人々を助けることだった。


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 ある日の午後、玲蘭は琳音と共に市場を訪れていた。琳音は玲蘭の隣で元気よく商人たちと話しながら、商品の品定めをしていた。


「玲蘭、この布すごく綺麗ね!少し派手かしら?」


 琳音は鮮やかな絹の布を手に取り、楽しそうに見せてきた。玲蘭は微笑みながらその布を手に取った。


「確かに綺麗ね。琳音に似合いそう」


 二人が市場でのんびりと過ごしていると、突然、遠くから叫び声が聞こえてきた。


「泥棒だ!誰か、助けてくれ!」


 玲蘭はその声にすぐ反応し、声がした方向に向かって駆け出した。琳音も驚いて玲蘭を追いかけた。


「玲蘭、待って!」


 玲蘭は市場の片隅で、商人の荷物を奪って逃げる男を目にした。彼は素早く荷物を抱え、狭い路地へと逃げ込もうとしていた。


(逃がさない!)


 玲蘭は素早く男の後を追い、狭い路地に飛び込んだ。男は驚いて振り返ったが、玲蘭の素早い動きに圧倒され、逃げる間もなく足を止めた。


「荷物を返して、今すぐ!」


 玲蘭は男に向かって鋭い声で言った。男は怯えた様子で荷物を手放し、その場に座り込んだ。


「す、すみません……」


 男は盗みを働いたことを後悔しているようだった。玲蘭は男に優しい声で言った。


「もう二度とこんなことをしないで。次は、もっと正しい道を選びなさい」


 男は深く頭を下げ、謝罪してその場を去っていった。玲蘭は無事に荷物を商人に返し、事態を解決した。


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 その後、琳音も駆け寄ってきて、玲蘭に驚いた様子で話しかけた。


「玲蘭、本当にすごいわ!あっという間に泥棒を捕まえちゃったのね!」


 玲蘭は少し照れくさそうに微笑んだ。


「ただ、手助けしただけよ。でも、これからもっと何かできることがあるんじゃないかと感じているの」


 琳音はその言葉に頷きながらも、少し心配そうに玲蘭を見つめた。


「でも、玲蘭一人で街の治安を守るなんて無理よ。もっと皆の力を集めて何かをするべきじゃない?」


 玲蘭は琳音の言葉に考え込んだ。彼女一人の力では限界がある。もっと大きな力を集め、街全体を守るための仕組みを作る必要があると感じた。


(街の人々を守るためには、一人で戦うだけでは不十分……皆で力を合わせる仕組みが必要だわ)


 玲蘭はその思いを胸に、何か行動を起こす決意をした。


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 翌日、玲蘭は蓮華の市の有力な商人たちに会いに行くことにした。街の中心で商業を営む彼らと話し合い、街の治安を守るための協力を求めることにしたのだ。


 商人たちは、玲蘭が以前に盗賊を退けたことを知っており、彼女の行動力に感心していた。彼女の提案に対して、最初は驚いた表情を見せていたが、次第にその必要性を理解し始めた。


「私たちは、街の治安を守るために自分たちができることをしなければなりません。この街が安全でなければ、商売もうまくいかなくなってしまいます」


 玲蘭は商人たちに熱心に語りかけた。彼女の言葉には真剣な思いが込められており、商人たちは次第にその提案に共感し始めた。


「確かに、最近は盗賊やならず者が増えてきて、我々も不安を抱えています。玲蘭さんのような人が、街を守ってくれるなら、私たちも協力しましょう」


 一人の有力な商人が賛同の意を示し、他の商人たちも次々に頷いた。


「そうだな。この街を守るためには、皆で協力しなければならない」


「我々も資金を提供しよう。警備隊を増やすための資金が必要なら、支援する」


 商人たちが次々と協力の姿勢を見せ始め、玲蘭の提案は実現に向けて動き出した。彼女はこの街で人々を守るための警備隊を組織し、定期的に街を巡回して安全を確保する仕組みを作る計画を立て始めた。


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 その夜、玲蘭は宿で一息つきながら、これまでの出来事を振り返っていた。自分が街のためにできることを見つけ、少しずつ行動に移せたことに、満足感を感じていた。


(これで、この街は少しでも安全になるはず……)


 彼女は自分の決意が実現し始めていることを感じつつ、これからさらに多くの困難が待っていることも理解していた。


 だが、玲蘭はもう迷うことはなかった。試練を乗り越えたことで、彼女は自分の力を信じ、他者を守るための力を発揮する覚悟ができていた。


(私は、もっと強くならなければならない……この街だけでなく、もっと多くの人々を助けるために)


 玲蘭は静かに決意を新たにし、次の日に向けてゆっくりと目を閉じた。

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