第5話 嘘につつまれた婚約破棄

 パーティー会場に到着すると、ゴールドを基調とした豪奢な装飾と、華やかなドレスに身を包んだ貴族たちの姿が目に飛び込んできた。私はアルフレッド王子の隣で、ぎこちない笑顔を浮かべながら歩を進める。


 本当は参加したくなかったが、アルフレッド王子から必ず参加するように言われていた。おそらく今回が最後になるだろうから、我慢して彼と一緒に参加する。


 突然、アルフレッド王子が大きな声で参加者の注目を集めた。


「みんな、ちょっと聞いてくれ!」


 ざわざわと、会場が騒がしくなる。


「ちょっ――」

「本日、エレノアからの申し出により婚約を破棄することになった!」


 いきなりの発表に、会場が騒然とする。私も何も聞いていない。こんな場所で、いきなり言い出すなんてありえない。発表する場所とタイミングを選ぶべきだったのに。そんなことなど無視して、アルフレッド王子は何も気にせず、やってしまった。もう止められない。


 こんな無茶苦茶な発表が、任せろと自信満々だった理由なの?


 そしてアルフレッド王子は、まだ口を閉じなかった。まだ何か言うつもりらしい。


「そして、もう一つ。みんなに知っておいてほしい事実がある」


 どういうこと? 何を言うつもりなの? 嫌な予感が、どんどん強くなっていく。


「彼女は、とある女性をイジメていた」

「え?」


 何を言っているの。意味がわからず、呆然とする。


「ヴァネッサという平民の女性を!」


 どういうこと。そんな嘘を、いきなり言うなんて。


「その事実を知って、俺は彼女をイジメから守ろうと思った。そうしているうちに、俺と彼女の間に愛が育まれた。俺は彼女を心の底から愛している。それだけでなく、ヴァネッサはとても優秀なんだ! 彼女のような女性を王国は大事にしていきたい。それを示すために、新しい婚約相手に選びたいと考えている!」


 まさか、彼の言っていた準備とはこのことなの? 真っ赤な嘘を言って、みんなに認めてもらおうと? 私のことも犠牲にして?


「来てくれ、ヴァネッサ」

「はい」


 呼ばれた女性が、アルフレッドの横に立つ。愛おしそうに、彼の腕に抱きついた。とても慣れた様子だった。


「彼女はとても優秀な魔法使いで、王国の将来に明るい兆しをもたらしてくれる存在だ! そのような女性こそ、私の婚約相手にふさわしい」


 腕に抱きついている女性が優秀であることを、何度も繰り返し強調して言い続ける。


「イジメにも立ち向かおうとする、強い精神も持っている。そんな彼女だからこそ、将来の王妃にふさわしいだろう。みんなも受け入れてくれ」

「よろしくお願いします、皆さま」


 ヴァネッサは、まるで王妃の座が約束されたというように、貴族たちに向けて頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る