第二章

第7話


 僕がドンカ・ダオの偽名を名乗り客分として所属するオワリノ公国は元々、大陸全土をその支配下に置くヤトマコウ国の一部であった。

 しかし皇国の力が弱まると共に、地方の豪族が王を名乗り独立する、いわゆる五コウ国の時代が訪れた。

 

 大陸の北に位置し、農業が盛んなツムギコウコウ国。

 大陸の西に位置し、工芸の盛んなサマッツコウ国。

 そして東に広がるスルガン卿(コウ)国と、今僕のお世話になっている南方のオワリノコウ国の計五国である。

 このうちスルガンとオワリノに関しては、他のコウ国と違い一言では説明のしにくい国の特徴を持つ。


 そもそも、統一国家時代からの皇国の支配者はミカドと呼ばれ、端的に言えば獣耳族達の信仰する神の末裔だ。

 そしてスルガンは、その信仰を国教とした信者の興した国。その成り立ちから皇国とは密接な関係を維持しており、そもそも国として分化する必要性すら無いように思われるかもしれないが。

 ただ教国が、ただの信者の集まりであり勝手にその国内だけで教義を信仰しているのであれば何の問題もなく勝手にしてくれで済む話なのだが、信仰心の無い者への目に余る宗教勧誘及び他国への干渉、そもそも教国のトップであるセガンク2世の政治手腕が問題で、宗教の名の下に不当に国の民から搾取し、私服を肥やしていると評判である。


 オワリノ公国はまた更に複雑な国の成り立ちがあり、他国のような突出した産業も宗教理念もなく、誇れるのは武勲。

 それもそのはず、公国の民はミカドを守る武士モノノフ、帝国で言う近衛騎士団を起源とする。


 二代前のミカドが不祥事で廃嫡され、その弟にあたる人物が新たなミカドに即位した際、組織刷新に伴い元ミカドに付き従う形で武士の一団が魔物の多く巣食う未開の大陸南方に移動、魔物を討伐して新たな国を起こしたのがその始まりとされる。


 耕国と工国の使者がやって来て、こう告げる。


「教国は、卿王自らが上洛の儀を行う模様」

「それだけは断固阻止せねばなりません、我々三国が力を合わせてでも」

 

 上洛の儀。

 そもそもミカドが神の代行たる地位を確立したのも、この儀式が元だと言われている。

 初代ミカドが神の血脈だと宣言しても、それを信じない獣耳族も少なくなかった。

 そこでミカドは神に最も近いとされる生き物、聖龍ヤマタとの対話を行ったという。

 最初は話し合いから始まり最後は力で捩じ伏せた形にはなったが、兎にも角にも聖龍を従えた事でミカドは大陸の長としての地位を勝ち取ったのだ。


 そしてスルガンの現卿王が今まさに同じ事をしようとしているという。

 聖龍を探し出し屈服させ、この大陸の覇者である事を宣言する為に。


「ふむ、面白い」


 その話に興味津々なのは公国の長である魔狼王ナブノガ。


「つまりスルガンを出し抜いて先に聖龍を御する事が出来れば、ワシが名実共にこの大陸の頂点という事よな」


 確かに単純な武力だけなら、人の身でそれが一番実現出来そうなのは彼である気がする。

 しかしさほど武に秀でていないスルガンが今回動いたという事は、聖龍に対抗する何らかの秘策があると思われ、そこが気になる所だ。

 それに教国も、周辺国の妨害が皆無と思うほど愚かではないはず。そちらもなんらかの対抗策を考えているのだろう。

 という意見を魔狼王に進言してみたものの。


「だとしてもドンカ、今の公国にはお前がいる。

 武の覇者と知の覇者、二人が揃えば怖いもの無しだ!」


 と高らかに宣言する魔狼王。

 あー、僕と帝国との関わりは黙って黙っておけばよかったかな。あれを報告して以来、彼の僕への評価が過剰すぎるんだよ。

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