第5話

 僕の名はスティーリー・スノウ。

 金髪碧眼の、偉丈夫……かどうかはともかく、この国では大柄の部類だ。

 それもそのはず、僕は元々この国の住人ではなくて記憶の殆どを失って漂着した異邦人だからだ。


 この国の先住民の標準的な特徴といえば僕より頭一つ小柄で黒髪黒瞳、そして獣の耳が標準装備。

 大柄なら戦闘で有利と思われるかもしれないが、武人の多いこのオワリノ公国では戦士としての才は落第点、おまけに何のために存在するか分からない外れ能力スキル「鈍化」持ち。

 自分自身を鈍化するこの謎スキルのためスローなんて呼ばれながらも、文官としての才能は評価されて国の王の妹でもある色素欠乏アルビノの白髮紅眼の娘、イチカと良い仲になり婚約にまでこぎつけた。

 でも王の家臣に彼女は寝取られる結果となり、傷心のまま国を出るつもりだったけどその前にイチカの病弱の妹イヌカに会いにいったら情熱的な粘膜接触による告白で彼女の病が治り、僕のスキルの真の力が覚醒した。


 って、この辺り言ってる僕自身未だに謎展開だが、とにかく僕のスキルは自分自身だけでなく接吻キスした相手を弱める、そんな力があるらしい。

 かくして僕は偽名ドンカ・ダオを名乗り、王の家臣であるボクっ娘猿獣人のチロキーの相談を受ける。

 彼女のスキルは俊足移動だが制御が出来ない、なので僕のスキルを使えば何とかなりそうだが流石に恋人でもない相手との接吻を彼女は躊躇して、そうこうする間に彼女が盗賊団に捕まった、とここまでが最近の出来事。


 で、今は捕まった経緯をチロキーの部下であり逃げ延びてきた眼の前の男、蜂系獣耳スキンヘットのロコク・カハチスに事情聴衆している最中である。

 

 「魔狼王様からの命で討伐に向かったのは、かのイシシシ盗賊団であります」


 はい?

 何だその、緊迫感の欠片もない笑い声みたいな名前の盗賊団は。


「ですから、女頭目のノノシ・イシシシ率いる盗賊団でありまして」


 ああ猪系獣耳イシシシ族って事か、了解。


 それ聞かなかったら、ただ含み笑いしてるだけの嫌な奴らだ。

 まあ基本野盗なんてのは、嫌な奴らの集まりではあるが。


 それにしても、猪族か。

 うちの公国の王の家臣、イツカヱ・タバシの熊族同様に力自慢の脳筋だって聞いてるけど。


「それがドンカ様、向かった先には巧妙な罠が仕込まれておりまして、しかも野盗らしからぬ素早い動きであっという間に囲まれてしまったであります」

 

 成程、これは相手の盗賊団に優秀な頭脳ブレーンが付いてる感じがする。


「やはり、そう思われるでありますか!

 ですのでここは一つ、公国きっての知将のドンカ様のお知恵をお借りしたく」


 

 それは構わないけど、僕レベルで知将扱いとはね。

 知将を名乗って良いのは、僕が以前いた国の宰相をしていた彼ぐらいだと思う。確か名前は……


 ……うっ!


 ソレを思い出そうとして、僕は頭が割れるように痛むのを感じた。

 そして朦朧とする意識の中で頭に浮かんだ、王冠を被った女性。


 あれは王女かな?僕の顔を覗き込んで、悲しそうな表情を浮かべ……


 

「……大丈夫ですか、ドンカ様っ!」

「ドンカさん、しっかりして下さいまし!」


 イチカ・イヌカ姉妹に声をかけられて僕は意識を取り戻す。


 大丈夫だよ……という言葉は二人には無駄か。

 何しろ相手は読心と鑑定のスキル持ちだ。うわべのカラ元気など直ぐに見透かしてしまう。


ーーちょっと記憶酔いしただけだよ、心配ないから。

 

 そこまで言い切って、ようやく姉妹はホッとした表情を浮かべたのだった。

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