第29話
<外、出る>
は?
<だって、
涼音も綸子も店来てるのに、
私だけそっちいけないの、おかしい>
おかしいってったって
<外、出ちゃったら
さすがに向こうも気づくよ?>
ハッキングスクリーンセーバーの
意味がなくなる。
<ふふん>
?
ん、なんか、画像送られてきたけど
……
<どうよっ!>
……
あぁ。
変装、かぁ……
要するに、男の娘になるわけな。
ん、逆だっけ。
まぁいいけど、原作でもあ
<時之助に言ったら拒否られた>
そりゃそうだわ。
心配だわ、どう考えても。
思い返すと原作ってめっちゃ不用心なんだよな。
まぁゲーム的なイベント進行考えたら
<だから兄
私を連れ出せ>
<拒否する>
<(゚Д゚!?>
<変装がばれないかもそうだけど、
どこに何の監視があるか分からないんだよ>
<ふっふん>
?
<おーるかばー>
は?
<ぜんぶウソの音が流れるようにした
部屋と同じ
音だけだし、トラッキング少な目>
……
なにしてんの4歳児。
まぁ、幼稚園も習い事も行ってないし時間しかないわけだと、
これは……。
<最初リムーブしてたんだけど、
また仕掛けられるんで、めんどくさくなった>
……あの、ねぇ……
っていうか、もろに敵が浸透してるってことじゃん。
<仕掛けたやつの指紋、一応とった>
……は?
<それはいい
だから私を外へ連れ出せ>
……いや、それは……
<連れ出さないなら
時之助と口きかない>
……その脅し、
本人に言うべきだろうに。
<常盤、常盤っ>
カネないってのっ!
*
「……広瀬さんの親戚の男の子、か。」
こうすれば、なんとかなるんじゃないかと。
って、ゲロ浅知恵よなぁ。
家の出入りすげぇ気を使わないとだし。
でも、これ以上閉じ込め続けることも難しい。
コロナんときの子どもと同じだわ。
「涼音ちゃんは賢い娘ですから、
言ってはいけないことはわかるかと。」
なんせ、参謀役だったからな。
……ん?
「いや。
お前、なんで涼音ちゃんのこと、
そこまで知ってんだ?」
ぶっ!?
「はは。
ほんと、広瀬さんに殺されるぞ。
こないだ飲んだ時、
三十まで結婚させるか、って言ってたからな。」
う、うわぁ……。
わかる。わかるわ、それ。
「……
まぁ、家にずっと一人でこのまま置き続ける、
っていうわけにもいかねぇよなぁ……。」
原作では12年間そうだったんだけどね。
「ただ、わかるな。」
「ええ。」
味生義純の息のかかった奴らが、
茶屋町に浸透してる限りは、
派手なことはできない。
「一応、微かな希望はあってな。」
ん?
「味生義純は、重度の癌を患ってる。
そう遠くないうちに死ぬだろうよ。」
あ、あぁ……。
!
「だからこそ危険、
っていうことはありませんか?」
「ん?」
「命を長らえさせるためにはなんでもしそうですし
命尽きる前に大願を果たせと命じる恐れは、十分に。」
「……それで、かもな。」
?
「いや。
例の東京JL病院の件、かなり強引にやったようでな。
身元保証と引き換えに寝返った奴らが、
内情をペラペラしゃべってやがるんだよ。」
あ、あぁ……。
「向こうも多少混乱してきたようだが、油断はできねぇ。
一応、公安がついてはいるそうだが、
あいつらだって、コロっとモグラになっちまう奴らだ。」
うわ。
「つっても、俺らにできるこたぁなんもねぇな。
このへん、お前もよく知らんのだろ。」
知らん。
微塵も。これっぽっちも。
「お前の偏った情報はどっから出てくるんだろうな。
あぁ、聞かねぇよ。
お互い、出所を聞いてもしょうがねぇからな。」
……よく、わかってくれてるなぁ。
まぁ、こっちとしては、
死んだ後のことのほうを警戒しておかないと。
なんせ、究極のサイコパスナルシスト野郎、
甲斐田良英が簒奪するんだからな。
年寄の妄執と違い、自らの野望達成のために、
合理的に、着実に、容赦なく使いこなし、
多くの血で贖われた呪われた覇道を突き進んでいく。
「菜摘のことは、
ちょっと、考えとく。
くれぐれも暴走させんじゃねぇぞ。」
あぁ。
……しそうなんだよな、ほんと。
*
あ。
そう、か。
今日、都大会だったんだよな。
夏休み中つっても、よく平日執行できたな。
そういえば、
今日は、観戦してほしいとか言われてないな。
あれは気の迷いみたいなものか。
……
広い、な。
一人しかいないと、こうも広いのか。
あぁ。
とてつもなく贅沢な環境だった、ってことか。
そりゃ、そうか。
ただのレッスンプロじゃない。
ツアーを廻れるレベルの有名プロの卵だろう。
1日2万じゃ済まないかもしれない。
教えるの上手いのはいいんだけど、
キツいんだよな。容赦ないし……。
……はは。
ぜんっぜん、身が入らんわ。
カラダが全力で手を抜いてやがる。
隣にいてくれたから、
ちゃんとやれてたってことか。
……
ひとりがいい、
誰にも干渉されたくないって思ってたけど、
ひとりは、辛いんだなぁ。
なんて、な。
身の安全が保障されてるだけでも望外なのに、
強欲にもほどがある。
……
無償で貸してくれてる以上、
あの娘に顔向けできる程度には、やりきっておかないと。
マメの場所とかで全部わかられるもんな。
*
からんからん
……来た、か。
「こんにちはぁっ!」
「こ、こんにちはっ!」
「……っ。」
んぷっ。
い、いや、
こっちが笑っちゃってどうする。
「いらっしゃい。
アイスティーでいいの?」
「うんっ!」
「は、はいっ!」
「……」
二人はちょくちょく来て長居してるけど、
三人での絵面はこれがはじめて、か。
まさにファンディスク先行予約者特典映像。
菜摘は実質初対面だから、借りてきた猫のように大人しい。
涼音や綸子を呼びつけにしてるのはチャット上だけのこと。
甚だしい内弁慶ぶりは原作と変わらんなぁ。
おっと、茶番を演じないと。
「そちら、新しいお客さんだね。」
「うん!
親戚の男の子だよっ!」
あぁ、カキワリ通りに喋って偉いぞぉ。
じゃ、ないわ。
っていうか、菜摘、めっちゃ黙ってるな。
声出したら、バレるもんなぁ。
そのうち変声機でも作りそうだけど。
「そうなんだ。
涼音ちゃんの親戚なんだね。」
「そうだよっ! ねっ。」
さすがだな、涼音。
目端が利くタイプの賢さだ。
参謀役になるだけある。
菜摘はギフテッドだけど、
社交スキルは最後まで1のままだった。
月宮雫、河野時之助以外と喋ってるシーン、
見たことないもんな。
まぁ、いいか。
なんせ、絵面がめちゃくちゃ可愛い。
なんていうか、存在自体がファンディスク。
「お名前は?」
「え?」
うわ。
そこ、作ってなかったのかよ。
変な藪、つついちゃっ
「……奨。」
え。
「おかあさんが、
おとこのこなら、って。」
あ、あぁ。
そうなんだ。
っていうか、もろ菜摘の声じゃん。
「そうなんだ、奨くん。
よろしくね。」
やっちゃったって顔して、
顔、真っ赤にして頷いてるな。
ショタ筋が涎出しそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます