第26話 巨体の奮闘

「はああああっ!」


 アンリが力強い剣の一振りで、スカルドレイクの脚を斬りつける。


「フルルルル……」


 だけどスカルドレイクを構成する骨はとても固いようで、アンリの剣も弾いてしまった。


「ちっ、固いな……!」

「今度はあたしが! ブーストパンチ!!」


 続いてリリアも魔法でパワーを底上げしてのパンチを、スカルドレイクの顔面にお見舞いする。


「何これ、かった~い!!」


 こちらも固い骨に打ち付けてしまった手を、リリアは痛そうにヒラヒラと振った。


「どうやら生半可な物理攻撃では傷ひとつつかないようですね……!」


 その様子を見て、苦言を呈するアイクさん。


 それなら僕のパワーでなんとかするしかないぞう!


「みんな退いて、うおおおおおおお!!」


 全速力で突撃した僕は、スカルドレイクの頭と力一杯ぶつかり合った。


 その途端、目の前にお星さまがちらつくくらいの衝撃が顔面を襲う。


 確かにこれは固いぞう、だけど、パワーならアフリカゾウの僕が上だ!


「うおおおおおおおお!!」


 頭と頭を打ち付けたまま、僕は全力でスカルドレイクを押し込もうとする。


「フルルルル……!」


 パワーで勝る僕が、スカルドレイクを徐々に押していった。


「よしっ、このままいけば!」


「待って、このままじゃタイゾウさんが……!」


 アンリの希望的一声もつかの間、シェリーさんの忠告通りスカルドレイクが鋭い爪で引っかいてくる。


「ううっ!!」

「タイゾーさん!!」


 腹を切り裂かれた鋭い激痛で僕がうめくと同時に、スカルドレイクが至近距離で口からどす黒い息を吐いてきた。


「危ない! ……クリーン・ゾーン!!」


 刹那、僕の目の前をまばゆい光が覆って、スカルドレイクのどす黒い息を防ぐ。


「シェリーさん!」

「良かった、間に合ったよ! ……うう!」


 だけどどす黒い息を食い止めるシェリーさんも、その勢いに押されつつ顔を歪めた。


 その魔法で逸れたどす黒い息は、地面にかかるなり草をみるみるうちに枯らし、土壌を暗黒に染めていく。


 もしあれをまともに浴びてたら……ぞうっとするぞう。


 って、ダジャレなんて言ってる場合じゃない!!


「シェリーさん! 何か突破口はないんですか!?」

「わたしの浄化魔法なら、スカルドレイクにも致命傷を与えられると思う。……でも、そのためには時間が必要なの!」


「それじゃあ時間を稼げばいいんですね!」

「タイゾウさん!?」


 思い立った僕は、シェリーさんの魔法圏外に躍り出て、どす黒い息を浴びながらもスカルドレイクの首に長い鼻を巻き付けた。


「フルルルル!!」

「こんのおおおおお!!」


 どす黒い息が当たって、肌に焼けるような痛みに襲われる。


 ゾウの分厚い皮膚でも、もって数十秒ほどか。


 だけどシェリーさんのためなら!


「うおおおおおおおお!!」


 巻き付けた鼻で僕はスカルドレイクを組み伏せ、どす黒いブレスを封じる。


「フルルルル……!」


 スカルドレイクも圧倒的パワーから逃れようともがくも、僕は象牙も突き立ててさらに地面に押し付けた。


「ありがとう、タイゾウさん! ……ターンアンデッド・エクセレント!!」


 ちょうどそのタイミングで、身体に光をまとわせたシェリーさんが杖を掲げて、白くまばゆい光を放つ。


「フルルルル……!?」


 聖なる光を浴びたスカルドレイクは、たちまち風化するように崩れ落ちた。


 それと時を同じくして、空を覆っていた鳥たちもどこかへ飛び去っていく。


「やった……! ぱおーん!!」


 この勝利で僕が鼻を高々と上げたのもつかの間、背後でシェリーさんが跪くのを目の当たりにする。


「シェリーさん、大丈夫ですか!?」

「わたしは平気だよ。……それよりもタイゾウさんの方が大変だよ、今からわたしが治してあげる」


 杖を支えによろよろと立ち上がろうとするシェリーさんの身体を、僕は長い鼻で支えてあげた。


「おっと」

「ありがとう、タイゾウさん。それじゃあ、ヒール」


 シェリーさんがなけなしの魔力で、僕の傷を治してくれる。


 だけどそれだけじゃ焼けるような肌の黒ずみは消えなかった。


「これは呪いね、解呪もセットでやらないと。……ディスペル」


 シェリーさんが今度は手を青く光らせると、僕の肌のヒリヒリする黒ずみも次第に消えていく。


「これで完了だよ」

「ありがとうございます、シェリーさん。これで僕も全快です」

「それなら良かった……!」


 そう安堵の息をついたシェリーさんは、僕の鼻にもたれかかるように身体を預けてきた。


 わぷっ、シェリーさんの豊かなお胸がムニッと……。


「シェリーさん、これ飲んで!」


 リリアが青いスタミナポーションを差し出して、シェリーさんに飲ませる。


「うぷっ。ありがとうね、リリアちゃん」

「困ったときはお互い様でしょ!」


 そういうリリアに肘で気さくに小突かれて、シェリーさんも嬉しそうに微笑んだ。


 冒険を通じて二人も仲良しになってるようで何よりだぞう。


 そんなことを思っていたら、騎士団のレオンさんとアイクさんがこんなことを。


「しかしタイゾウ殿もさすがだな、あのスカルドレイクを独りで食い止めるとは」

「本当ですよね、あの巨体は伊達ではなさそうな」

「えへへっ、それほどでもないぞう」


 こうして道中の障害を取り除いた僕たちは、蠱毒の森へ向けてまた進みだした。

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