第44話精神科医side ~実に興味深い1~
【お父さんとお母さんへ。
今も病室から手紙を書いているの。先生が言うにはまだ退院できないみたい。なんだか難しいことを言われてちょっと分かんなかった。
ただ、前の病室から違う病室に移動したの。こっちの方がいいんだって。何がいいんだろう?さっぱり分からない。でも前の部屋よりも寂しい感じがするの。なんでかな?
あと、この病室の窓から見える景色がすごく好き。
海が見えて、太陽が沈んでいくところが見えるの。それがとってもキレイでずっと見てられるんだ。だからこの窓は特別。
お父さんとお母さんにも見せてあげたいな。きっと気に入るから。私はもう少しこの窓から海を見て、お父さんとお母さんのことを想ってるね。早く退院したいな。お母さんは寂しがり屋だからきっとエンビ―が居なくて泣いてるんじゃないかな?大丈夫?寂しくないようにエンビ―が毎日手紙を書いているの。
お父さんも寂しいだろうけど、お母さんの傍にいてあげてね。】
【お父さんとお母さんへ。
この前の手紙で変なこと書いちゃってごめんなさい。お父さんはずっとお母さんの傍にいるのにね。なんでだろう?ずっと居ないみたいに思っちゃった。おかしいよね。二人は仲良しなのに。あれ?でも二人はどんな風に仲良しだったっけ?忘れちゃった。これも頭を打ったせいかな?来月のお母さんの誕生日には家に帰りたいな。毎年パーティーを開いてたでしょう。あれ?違う……。うん……と。三人でお祝いしてたような。お父さんは居なかったような。いつも一緒の二人なのに……。お父さんはいつも仕事で遅くて……。あれ……?】
「いやはや、まさかの展開だ。実に興味深い」
「貴方って本当に悪趣味よね」
「おや?君だって人のこと言えないだろ?」
「それは心外だわ。私は貴方ほどじゃないわよ」
「よく言うよ。この間、発表した論文が学会で大絶賛されたそうじゃないか」
「なにか問題でも?私は家庭内で起こった悲劇を未然に救った英雄。いわば救世主よ」
「家庭内暴力にネグレスト。それによって引き起こされた人間心理。よく分析されたものだったよ。結構時間掛かったんじゃないかい?あれだけのモノに仕上げるには時間と観察が欠かせないからね」
「いやだわ。私の患者のことなんだから知っていて当然でしょう?」
昔からの腐れ縁の女性。
女性の医師は少ないが、更に少ない精神科となるともっと少ない。そんな世界に飛び込んできた変わり種、それが彼女だ。
「君ならもっと早く助け出せたんじゃないかい?」
「無理よ。家庭内のことってそう簡単に踏み込めないのは貴方もよく知っているでしょう?行政の介入も簡単じゃないし。一見、普通の家庭にしか見えなかったしね」
「一番質が悪いパターンだ。でも、そこで終わらないのが君の怖いところだ」
「当たり前でしょう」
助けたのは彼女の善意だ。それは間違いない。だが、それ以上に“いい研究対象”を逃したくなかった。きっとそれが一番の理由だろう。人のことを散々悪趣味だのなんだの言うが、自分だって同じ穴のムジナだ。
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