第38話精神科医side ~問題の患者2~
父親との暮らしは不満の連続だったようだ。
学校から帰ってきたら家事に追われる毎日。まあ、家事といっても料理は賄いがある。だから彼女がすることといったら掃除や洗濯だ。
患者の年齢を思えば大抵の子はそこそこ家事手伝いをしているものだが。今までそういう生活をしてきていないんだ。慣れなかったんだということは想像できる。
「お父さんは手伝ってくれなかったのかい?」
「ううん、手伝ってくれる。でも……おばさん達が言うの」
「なんて?」
「これくらい出来て当たり前だって。仕事でクタクタになって帰ってきたお父さんにやらせるもんじゃないって……」
どうやら色々言われたようだ。騎士団員の奥様ネットワークだろうか?女の子は家事ができるように指導してくれるらしい。話を聞く限り、嫌味も混じっているようだが。無理もない。家事ひとつ満足に出来ないうえに物覚えが悪い、と何度も怒られたとか。
「皆、意地悪だった」
ポツリ、と呟かれた言葉が室内に響いた。
「意地悪ですか?」
「患者にとってはそうらしい」
「父親が副団長クラスなら収入良いですよね?」
「高給取りだよ」
「なら通いの家政婦さんとか雇えるんじゃないですか?」
「雇えるね。ただし、その場合、騎士団の宿舎をでないといけない。父親にとっては半ば集団生活に近い宿舎の方が良かったんだろう。なにしろ、母親が傍に居ない状態なんだ」
「そういえば、騎士団の子供達は親が育てるっていうより集団で育てる形式ですよね?」
「ある程度は母親が見てるだろうがね。それでも皆で育てようって意識が強いよ」
その輪に入れなかったのか。馴染めなかったことは確かだ。
親元に帰されてから騎士団員の子供達とも上手くいかなかったらしい。子供同士のいざこざも多かったようで、父親の副団長がよく相手側に頭を下げていたとか。
友達がいれば未だ違ったのかもしれないが。
患者の少女には親しい友人は皆無だった。
愚痴をこぼす相手もいない。
相談する相手もいない。
子供は大人よりも新しい環境に馴染みやすいとはいうが、それは人による。
全く違った環境……というよりも別世界だった伯爵家に直ぐ馴染めたのは伯爵夫人が傍にいたからだろう。まあ、馴染んだというか、夫人の寵愛を得たから出来たことだが。
庇護がいないも同然の実家はさぞかし戸惑った筈だ。
騎士団の子供達は独立心旺盛だ。真逆の少女にはその空気に馴染めなかった。
急激な環境の変化にただ戸惑っていたのか、と思ったがどうやらソレだけではないようだ。
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