第33話愚かな母親

 エンビー嬢が王立学園を受験した――と。

 本当ですか?エンビー嬢ですよ?

 


「何かの間違いないでは?」


「残念ですが……」


 どうやら私の聞き間違いではないようです。

 フィデも信じられない面もちでいます。分かります。その気持ち。


「よく……受験したものですわ」


「本当に……」


 まぁ、受験するのは自由ですから、受験自体は……。


「結果はどうなりましたの?」


 聞かなくてもよさそうなものですが、一応聞いておきましょう。


「不合格でした」


「そうでしょうね」


 フィデも当然とばかりに頷きます。

 王立学園は選りすぐりのエリートが通う学園。

 エンビー嬢に受かるはずがありません。


「試験結果に納得がいかなかったようです」


「エンビー嬢がですか?」


「いえ、その母君が」


「エンビー嬢のお母様が?」


 フィデによると、エンビー嬢の受験結果に烈火のごとく怒り狂ったそうです。

 学園長に直談判したとか。


「それは……また……」


「はい。それはもう、大変だったようです」


「でしょうね……」


 エンビー嬢のお母様はご自身の娘が不合格になった事実が認められなかったようです。

 自分の娘が不合格などあり得ない、と訴えたとか。

 訴えたところでどうにもなりません。

 結果が全て。


「学園側も不合格という判断が覆ることはありませんでした」


「そうでしょうね」


 そもそも勉強嫌いのエンビー嬢には無理でしょうに。

 入学前から結果は目に見えていたようなものです。

 エンビー嬢のお母様は気付かなかったのでしょうか?

 それとも自分の娘なら受かると思っていたのでしょうか?

 ご自分が優秀だからといって娘まで優秀だとは限りません。

 エンビー嬢のお母様は、本当にご自分の娘を理解しているのでしょうか? 少し不安になります。



 この不安は的中し、翌年もエンビー嬢は王立学園に受からず、またも抗議したそうです。


 わざと入学できないようにしたと。

 嫌がらせだと。


「何と言いますか……」


 呆れてものが言えません。


「それはあまりにも愚かしいですわね」


 嫌がらせってなんですか?

 わざと入学させないってなんですか?

 入学試験は公正かつ厳格に行われます。

 学園側が不正をすることはありません。

 それは卒業生であるエンビー嬢のお母様が、一番よく分かっているでしょうに。


「はい。エンビー嬢の母君は、かなり感情的になっているようでした」


「そう……」


 合格者の中には片親や孤児院出身の者も少なくありません。

 どうやらそういった方々を贔屓していると、エンビー嬢のお母様は主張したそうです。


「何を根拠にそんな事を主張したのです?」


「分かりません。ですが、エンビー嬢の母君は頑なに、『自分の娘が落ちるなどあり得ない。娘は優秀だからだ』と仰るばかりで。もっともまともに相手する者はいなかったようですが」


「そうでしょうとも」


 エンビー嬢のお母様は、学園側を罵倒しまくりだったとか。

 挙句の果てに、お金を積んで入学しようと目論んだとか。


「お金でどうこうできる学園ではありませんのに……」


 賄賂は勿論のこと、裏金入学など以ての外。他の学校と違ってそういったものは一切受け付けない実力主義。

 入学テストで落とされていますが、恐らく面接でも落第点だったのでしょう。

 あの学園は生徒個人だけでなく保護者もしっかり審査されます。

 子供が優秀でも親がアレな場合は、条件付きの入学と判断され、問題児の親と引き離す方向で処理されます。

 エンビー嬢の場合は母と娘の両方で問題だと判断が下り、不適格者と判断されたようです。


「本当に愚かしいですわね」


「全くでございます」


 結局、エンビー嬢は私立の学校に通わされたそうです。お金さえ出せれば誰でも入れる学校。不出来な貴族の子弟やお金持ちの平民が行く場所としても有名。何故そのようなところにと思いましたが、人脈を作るにはいい場所であるのも確かです。


「問題行動が目立っております」


 



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