マリオンは飯ウマ料理人の腕を再現したかった
最近、冒険者ギルド、タイアド王国王都支部の食堂のごはんが美味しいと評判である。
特に軽食コーナーの食事パイや焼き菓子の評判が良い。これは料理上手なガブリエラが来てからの現象だ。
「それガブリエラさんがいなくなったら、また元通りじゃない?」
「厨房の料理人にコツを教えたから、多少マシになるはずよ」
ガブリエラがエプロンのポケットから出したのは調味料入れのガラス製の小型ボトルだ。数本ある。
実はこの調味料ボトルが、マリオンが研究学園で設計図を盗まれた魔導具の発明品のひとつだった。
「この国、生活雑貨もデザインは良いんだけど機能がいまいちでさ。この調味料ボトルは、中に入れた調味料が“常に一定量”出るように工夫したやつなわけ」
例えば、塩のボトルは常にまんべんなく同量が出るので、とても使いやすくなった。
湿気防止用に乾燥を付与した魔石の粉を瓶のガラスに練り込んでいるので、塩は常にサラサラだ。
「塩なんて出る穴のサイズを工夫したり、中に除湿剤でも入れればいいのに。ちょっとでも湿って塊になったらすぐ捨てちゃうんだもの、食材ロスが激しいよね。信じらんない」
マリオンが本来設計した調味料ボトルでは、魔導具らしく、使用する人の好みで瓶から出せる調味料の量が調整できた。
ところが盗まれた設計図は、マリオンが一部に歪みを加えてその微調整が不可になっている。
「そうねえ。この盗難バージョンでも、バタートーストにお塩ちょっとかけたり、シナモンシュガーを振りかける分には問題ないんだけど……」
「ちょっとずつしか出ないから、こういう食堂の厨房で大量に調理する用には使えない……か」
「仕上げに振りかける塩や胡椒用なら便利だけどね」
それでも、この国にはなかった台所雑貨の魔導具なので、販売されるなり売れに売れた。今ではここ、冒険者ギルドの食堂のテーブル一台ずつの備品になるほど。
それだけ売れたというのに、本来の開発者であるマリオンの元には1銅貨(約百円)も入らない。
「本当に作りたかったのは、こんな簡単なやつじゃないんだ。全自動調理器を作りたかったんだよね」
本日のランチはガブリエラが焼いた、胡椒やクミンなどを利かせたスパイシーなビーフフィリングのパイと、お野菜モンスターたっぷりのホワイトシチューのパイ、やはりお野菜モンスターで作ったミネストローネである。
ちなみにランチタイムはスープが飲み放題。
パイは大人の男の拳よりひと回り小さいぐらいの円盤の形の包みパイだ。
パイ生地は地元のパン屋から仕入れ、中身はガブリエラが作って成形し、オーブンで焼き上げるのは厨房の料理人に任せている。
冷めても軽食で美味しく食べられるのだが、焼きたてを食べたいとの冒険者や職員たちのリクエストがあった。
それに応えて、焼く前の状態までをガブリエラが作って、冷蔵保存庫にストックしてある。
「パイはまだ難しいかな。調理工程が多いからね。このミネストローネだったら、炒めて煮込むだけだからやりやすい」
マリオンが考えていたのは、既存のスープ用の保温器の応用だ。
材料を鍋や寸胴に入れて、名人級の料理人のスキルやコツを魔力に乗せて記憶させた魔石をセットする。
火加減や調味の工程を、この魔石がコントロールしてスープを作る。
盗まれた調味料ボトルは、本来ならその全自動調理器にセットして使う予定だったものだ。
「ほら、ルミナスたち
「ああ、確かに彼の料理は美味しいわね。でも飯ウマの料理はコツだけコピーしても意味がないわ」
料理する者の中には、料理に対して飯ウマや飯マズなどの属性付与スキルを持つ者がいる。
本人の持つ個性や魔力の性質によるので、単純に料理上手な人間からレシピを習っても、同じ味にならないことが多かった。
「そこは考慮済み! 魔石に錬金術を用いて、料理人の魔力も記録させる仕様にするんだよ」
「え。ということは、飯ウマ再現できちゃうの? それ大陸史に残る偉業なんじゃあ」
ところが、だ。
「その錬金術に使う媒体を研究学園で横取りされちゃったんだよね。せっかくじいちゃんがたくさん送ってくれてたのに」
「ああ……取り戻せるといいわねえ……」
ダリオンは奮発して、この世で最も高価な素材のひとつ、ダイヤモンドの上位鉱物アダマンタイトを孫のマリオンにプレゼントしていた。
ところが例の研究学園で偽王子たちに奪われ、結局手元に返ってきていないのだ。
「ハイヒューマンのおじちゃんに頼めば分けてくれるとは思うけど。あの人のところに行くと、いーっつも話長いんだもん」
「ピュイッピュイッ?」(おはなし聞くだけで
「……ふふ。ここでの問題が解決したら、故郷に帰る前におじちゃんのとこ寄ろうか。ルミナスも久し振りに会いたくない?」
「ピューイッ!」(あいたい! ルシウスさまにもふられたいです!)
興奮するルミナスを宥めるように全身をもふもふっと撫でながら、とりあえずお手紙を書こうと思ったマリオンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます