ルミナス、王子に試練を課す

 持っていたタオルで鼻を押さえながらも、湯船から出てマリオンのほうへ向かおうとしたエドアルド王子。


 だがそんな彼を、綿毛竜コットンドラゴンのルミナスが頭の上で金髪を引っこ抜く勢いで啄んだ。


「あたっ、ちょっと痛いよルミナス!」

「ギャオンッ!」(なにマリオンに近づこうとしてるの? 王子さまだからって調子にのらないでよね!)


「こらールミナスー。他のお客さんに迷惑かけちゃダメだぞー」


 洗い場で目を瞑りながら、頭をシャンプーで泡々にしながら洗っているマリオンが注意してきた。


「ピュイッピュ!」(はーい!)

「あざとい! 可愛いけどお前あざとすぎ!」

「ピュアー!」(ぼくがかわいいのは当然でしょ。竜種一のアイドル、ふわふわ綿毛の綿毛竜コットンドラゴンだからね!)


 と冗談はともかくとしてだ。

 こそこそっとルミナスはエドアルド王子と情報交換をした。


「ピュッピュイッ」(うん。ダリオンから聞いてるのとだいたいおなじ!)

「や、やっぱりミスラル銀1キロゲットするまで駄目かな? マリオンに会えない?」


 すぐそこにいるんですけど。裸もずっと見てたいけど、あの可憐で可愛い顔を十数年振りに見たいのですが!


「クワァーッ」(舐めたこと言ってるんじゃねえぞー!)

「痛いー!」


 エドアルド王子の頭の上から再びドラゴンキックである。


(ぼくは怒ってるのだ。まだ子どものマリオンが丸一日ごはんが食べられなかったり、お布団もない狭いとこで寝起きする羽目になったり! ぜんぶぜんぶエドくんのせい!)


 よし、ここは自分もダリオンにならって彼に試練を課そう、とルミナスは決めた。




「ピュイッピュイッ」(エド君さ、マリオンに許してもらいたかったらわかるでしょ。男なら貢ぎ物ぐらい持ってきなよ)

「み、貢ぎ物って何を……?」


 まさかミスラル銀追加ですか?


「ピューピュイッピュ!」(ぼくはマリオンに羽毛をあげたよ。黄金龍の鱗とか一角獣の角とか、そのぐらいクラスのもの持ってこーい!)

「それ伝説級の神獣様じゃん! ていうか今もいるのそれ!?」

「ピュー!」(しーらない)


(エドくんもちょっとは苦労したらいいよ!)




「もうー、ルミナスったら。あ、すいません、うちのドラゴンを構ってくれてありがとうございました」

「!」


 まさかの。まさかのまさか、マリオン本人が湯船のエドアルド王子の隣に入ってきた。

 そして王子の金髪頭の上に乗っていたルミナスを取り上げて、自分の頭に乗せた。


「ルミナス、熱いお湯は苦手じゃなかった?」

「ピュイッ」(湯気を浴びてただけー)


(ま、マリオン……っ)


 変装用の眼鏡をかけて凡庸に見せていたが、エドアルド王子にはわかる。

 ピンクブラウンの髪は幼い頃と同じだし、何より澄んだ水色の魔力は全然変わらない。


「わ、わわわ……」


 話さなきゃ。何か話さなきゃ、と王子が一生懸命に考えてテンパっていると、ざばっとマリオンが湯から上がった。


「ここお湯熱いね!? もういいや、先に出てお姉さんたちを待ってよう」

「ピュー」(おっけー)


 湯を滴らせた白い身体は真っ赤に上気している。確かにお湯は熱かった。

 そしてそのまま脱衣所へと向かってしまったのだった。


 後に残されたエドアルド王子はといえば。


「マリオン……は、裸……前も後ろも……丸見え……」


 くらりと眩暈がした。いや湯あたりだ。

 それに今見たものがあまりにも刺激が強かった。


「王子! 王子、よくぞお耐えになりました、あそこで抱きつきでもしたらただの変質者ですからね、それでいいんです!」

「何でそこで名乗りを上げてすぐ謝れないかなあ……」

「王子、案外チキンっスねー」


 事情を知る側近や配下の騎士たちは呆れて軽口を叩いていたが、余計な口出しはしなかった。




 脱衣所で着替えていたマリオンの耳にも、浴場内での騒ぎは届いた。


「? 何だろ、あっちの人のぼせたのかな?」

「ピューイッ」(しーらなーい)



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