side 王子 ミスラルスライムが手強すぎる

「タイアド王国は芸術は本当に素晴らしくてね。マリオン君も保護したし、依頼任務が片付いたら美術館巡りもしたいわあ」


 と姉妹の任務にお供しながら、妹ハスミンのそんな先の予定を聞いていたマリオンだ。


「私は服や下着を買いたいわね。特に下着は刺繍が見事よ」

「マリオン君も勝負下着を買っておいたら?」

「下着で何を勝負するの?」

「ピュイ?」(羽毛なら負けませんけどね!)


 研究学園で虐げられていたせいで見事な欠食児童もとい欠食青少年だったマリオンだが、抜け出して冒険者活動していただけあって、まあまあ体力がある。

 それでもエネルギー切れを起こしたら、大きくなった綿毛竜コットンドラゴンのルミナスの背中に乗ったり、両腕に抱えてもらったりだ。

 ちなみに完全な成竜に成長すれば三人ぐらい余裕で乗せて飛べるのだが、まだサイズが足りなかった。


「お野菜モンスターの発生源を突き止めたら任務完了よ。まとまった報酬が出たらお買い物三昧しましょ」


 行き先はミスラル鉱山のある町だ。

 その近くの農地は最初に顔のある巨大なお野菜モンスターが発生したことで知られている。


 現在、例のエドアルド王子が国内の主だったお野菜モンスター討伐を終えたばかりなのだが、まだ発生源や発生理由が謎のまま。


 姉妹は魔力使いの力量を見込まれて、冒険者ギルドから調査依頼を受けているのだ。




◇◇◇




 一方、マリオンの祖父ダリオンに「ミスラル銀1キロ持ってこい」と言われたエドアルド王子は、自分の直轄領のミスラル鉱山で途方に暮れていた。


「ミスラルは確かにあった……でもまさか鉱脈をキングミスラルスライムが守ってるなんて……」


 普通のミスラルスライムでも、表皮にミスラル銀を含んで死ぬほど硬いのに、上位種のキング系ともなると並の武器では歯が立たなかった。

 仕方ないので配下の騎士たちや現地で募集した冒険者たちをまとめて撤収させ、麓の町まで戻ってきたところだった。


 街の外れの野営地では、今では山ほど採れるお野菜モンスターのぶつ切りで煮込みを作ってちょっと早い夕食である。

 煮込みの皿の中身を眺めて騎士たちが残念そうな顔になっている。美味くねえんだこれが。


「せめて魔獣が出ればなあ。肉ぅ……」

「魔法のスパイスがあるだろう? カレーだ!」

「王子、育ち盛りなんだから肉食いましょうよ肉!」

「野菜だけであっさり仕上げたのも俺、わりと好き」


 ともあれ、煮込んで塩で味付けしてあるならカレーである。

 荷物から取り出したカレー粉の瓶の中身をだぱーっと大鍋にぶち込んだ。


「王子、入れすぎ! ま、待って、そんな、やりすぎ! アーッ!」

「からーい……」

「だから言ったのに!」

「あっ、これカーナ神国産の魔王ブレンドじゃないですか! もったいなあ……っ」


 全世界の料理好き憧れのブランドの複合スパイスである。


 だが香辛料が加わったことで、味気ない野菜煮込みはぐっと食べやすく、食欲をそそる味と香りになった。

 本格的にやるなら玉ねぎを大量に炒めたいところだが、さすがにそこまでこだわってはいられない。

 僻地への遠征ではないので、パンやライスなどの主食も現地からたっぷり調達できている。

 野菜が大量に向こうからやってくるので素材がヘルシーな食材中心になるというだけで。


「あー……汗かいた。カレーからい」

「王子、日付が変わるまでは町の大衆浴場が開いてるそうですよ。護衛や汚れの激しかった連中を連れて入浴されてきてはどうです?」


 現在の野営地から大衆浴場のある町の中までは徒歩で20分とかからない。


「そうだな。スライム攻略に腰を据えるなら、隊ごとに交代で風呂入りに行くか」


 もう11月の冬季なので身体さえ清拭できれば討伐中の入浴にこだわる必要もなかったが、身体を清めて湯で筋肉を解せるのはありがたい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る