マリオンのお財布事情

「えっ、支度金もまだ受け取ってないの!?」


 見た目は美しいが味はいまいちな料理を突っつきながら、話の話題はやはりマリオンのことになる。

 毎月の報酬は学生扱いの勘違いで貰ってなかったと昨日の時点で聞いていたが、まさか支度金までもとは。


「そうだよ。タイアドに来て研究学園で必要な生活雑貨や講義に必要な機材や薬品を購入するための支度金、ゼロ」

「これまでの感じだと、やはり例の偽王子が横領してるんでしょうね」

「間違いなく。僕への実家からの差し入れはほとんどスルーしてたのに、そこだけはちゃっかりしてるよ」


 それでも最初の一ヶ月ほどは故郷から持ってきた手持ちのお金でやりくりしていたのだ。

 だが次第に生活にも困るようになったので、仕方なくマリオンは王都の冒険者ギルドに登録して、冒険者活動の報酬で何とか食い繋ぐことにした。

 そんなマリオンの冒険者ランクは、基本の薬草集めや一般家庭での手伝い任務から始めて現在Dランク。一番下のEから一段階だけ昇格している。


 不思議なことに、マリオンが冒険者活動に出かけて研究学園から抜け出しても、学園側から咎められることはなかった。


「そこまでマリオン君を管理してないってわけねえ」

「そのわりに、僕と出くわすとあの偽王子と取り巻きたちが理不尽に虐げてくるんだもん。できるだけ顔を合わせないよう、隠れるのが上手くなったよ。気づいたら隠匿スキルとシーフ(斥候)の適性がステータスに生えてた」

「「おおー!」」


 マリオンのブルー男爵家は元々が商人の一族で、百年ほど前に有名な魔導具師が出たことをきっかけに、魔導具師の道に進む者が増えた一族だ。

 大剣使いで、冒険者ギルドのお偉いさんまで昇り詰めた祖父のダリオンは例外中の例外。ほとんどの者は戦闘系スキルを持たないし、戦いにも向かない。


「ピュイッ」

「そうそう、ルミナスの野生の勘で危険回避してたしね」


 テーブルの上でぽんぽんの柔らかな胸とお腹を張って自慢げなポーズをするルミナスの頭の後ろの羽毛を、指先でわしわしっともふった。




「おーい、新聞に号外が出てるぞー」


 何やら食堂の入口付近が騒がしい。

 ギルドの職員が購入分を何部か食堂にも起きに来たようだ。

 ささーっと騒ぎの渦中にガブリエラが忍び寄って一部ゲットして、またマリオンたちのテーブルまで戻ってくる。


「やはり掲載されたわね」

「え。まさか」


 食器を横に退けて号外新聞を広げた。


 一面に大見出しで『タイアド王家の虐待か!?』。


 これだけだと現王家内での王族間の虐待かと勘違いしそうなものだが、しっかりと同盟国アケロニア王国で活躍していた魔導具師マリオンを不当に貶めていた実態が記事になっている。


「……ふふ。僕が書いた手紙もほぼ全文掲載かあ。いいね」


 マリオンが昨日、姉妹に勧められるまま書いた新聞社への告発文には、マリオンが研究学園で受けた仕打ちを、端的ながら主だったものを網羅している。


「『魔導具師マリオンが看破した偽王子の外見的特徴からすると、現王妃マルガレータの甥の一人と思われる』。……ふうん。ここの王妃様はエドの義母だよね。そういうことかあ」


 つまり自分は第二王子エドアルドの評価を下げるダシに使われたのだ。この国の王妃に。






※おすすめレビューとお星様★★★ありがとうございます!

めちゃくちゃ大ファンの作者様からレビュー頂戴してガクブル…嬉しい……

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