マンドラゴラのカップケーキ

「この間、マリオン君の実家近くに用があったからあなたのおばあさまに挨拶してきたのよ。そしたらタイアド王国に出張してるって聞いて」


 マリオンの食事中、仔犬サイズの綿毛竜コットンドラゴンのルミナスをお膝に乗せてもふりながらハスミンが話してくれた。

 綺麗で良い匂いのするお姉さんのお膝の上でルミナスはご満悦だ。


 一緒に旅をしている姉と、本拠地の国に帰る前にここタイアド王国の王都に寄ってくれたのだそうだ。


「驚いたわ。あなたの赴任先の研究学園に問い合わせても返事がなくて。そろそろ直接訪ねようと思ってたらあなた本人が来るんだもの」


 食堂で野菜の煮込み定食をかっこみながら、ハスミンから話を聞いた。

 料理はあまりおいしくない。ここ、タイアド王国は繁栄はしているが虚飾の国で、人々は外見には気を配るがあまり実がない。この煮込みもパンも色や形は良いが味はいまいちだ。


「ハスミンさんたちは何してたの?」

「今、郊外や地方で植物の魔物が大繁殖してるのよ。冒険者ギルドここに来たら緊急だからって依頼されちゃって」

「植物の魔物?」


「これよ」


 とそこで、横からまた別の、落ち着いた女性の声がして、目の前に顔のある薄茶色の根のようなものが突き出された。


「ガブリエラさん」

「マリオン、久し振り。元気そうで安心したわ」


 こちらのエプロン姿の女性がハスミンの姉だ。癖のある金髪と水色の目のハスミンと違って、長い腰までの真っ直ぐな髪は藍色。水色の目は妹と同じ。

 可憐な人形のような華奢で派手な印象の妹と比べると、とても落ち着いた雰囲気の女性だ。


 ちなみに年齢は、ハスミンが二十代前半、ガブリエラは後半ぐらいに見えるが、彼女たちは魔力使いの魔女。とても力が強いので、実際にはもっともっと歳を食っている。


「これ、マンドラゴラじゃない? 万能薬の材料の。これが繁殖してるならむしろ大儲けなんじゃ」

「残念ながらマンドラゴラの亜種で、大した薬効もないの。駆除した後の始末にも困るぐらいで」


 と顔のある根を引っ込めて、代わりにこんがり焼けたカップケーキを差し出してきた。


「食堂でお菓子を焼いて小遣い稼ぎしてるの。焼き立てよ、召し上がれ」

「わあ、キャロットケーキ!」

「に見せかけたこのマンドラゴラ入り」

「ブフォオッ!?」


 食後のスイーツにかぶりつくなり材料を暴露されて、マリオンは口の中のカップケーキを吹き出しそうになった。

 慌てて口を押さえる。何とか拡散の被害は防止した。


「あれ、わりと美味しい……?」

「駆除しても一銅貨にもならないけど、ニンジンの仲間だからまあまあよ」


 言ってガブリエラが手に持っていたマンドラゴラの亜種を半分に割ると、表面は薄茶色だが中身は発色の良いオレンジ色、いやニンジン色だった。


「それで、何があったの? 何かトラブルに遭ったみたいたけど」


 と着の身着のまま、冒険者ギルドにいるのに武器も防具も装備も何もない全身をじーっと姉妹の水色の目で見つめられた。



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