第6色 丸内林檎の言伝

「いや~人のお金で食べるご飯はおいしいね~」


 りんごちゃんの連絡を待ちながら、丁度お昼過ぎだったので、黒崎さんから借りたお金でノワルはランチを平らげてご満悦という感じだった。


「僕は逆に申し訳ないな。 今度お金を返さないとね」

「ええ~!? 奢って貰えるなら奢ってもらわないと人生損だぞ~」


 申し訳なさそうにいう僕とは逆にノワルは陽気に笑う。


「飲み物おかわりするけど、アランはどうする?」


 なんだかんだいってドリンクバーもちゃっかり注文している。


「じゃあ、ジンジャエールで」


 かくいう僕もだけどね。


「オーケーイ」


 ノワルは浮きながら、ドリンクバーコーナーに向かって行った。 すると、ポケットから振動を感じた。 僕は反射的にポケットの中からそれを取り出し、黒崎さんから預かった連絡機器の画面を開き、送られてきた内容を確認する。



『お待たせしてすみません。

 いきなりですが、折り入ってお願いがあります。 私達の代わりに調べて来て欲しい案件があります。 それと、心強い協力者を送ります。 その内容についての詳細はその人から聞いてください。 待ち合わせ場所は指定していませんが、とりあえず警察署から離れてください。 トウマくん達の特徴は伝えてあるので、すぐに会えると思います。 合言葉は『のじゃ魔女』といえば『○○じゃ』と返してくれるはずです。 迷惑をかけますがお願いします。

 丸内 林檎』



 僕は一通りメールの内容を確認すると1つ思った。


「りんごちゃん、その人の名前覚えてないな」


 いつもの事ながら、りんごちゃんは頭はすごいキレるけど、人の名前を覚えることが苦手なのだ。


「『場所の指定をしていない』ってなんでだろう?」

「周りをよく見てごらんよ」


 ノワルが後ろから急に言ってきて驚く。


「え?」

「はい、ジンジャエールね~」


 だけど、何食わぬ顔で飲み物を渡す。


「え? ノワル、メールの内容読んだの?」

「後ろからちゃちゃっとね~」

「すごいな、気づかなかったよ」


 そうだ、それより。


「周りをよく見てってどういう意味?」


 僕がそう聞くと、ノワルは飲み物を飲みながら目線だけで合図してくる。 それを見た僕は察して目線だけをそこに向けると、僕達の席から通路を挟んで5つほど離れた席に二人組の男性がいて、日常会話の様な事を話してバレない様にしているけど、よく見るとこちらを観察しているようだった。


「ねえ、あれって……」


 僕は小声でいう。


「多分、追っ手だろうね、キミを見つけたはいいけど、マルちゃんがいないから探しているって感じだね」

「なるほど、だからあえて場所指定をしなかったのか」


 りんごちゃんは僕の近くに追っ手がいることも計算して場所を指定しなかったのだ。


「相変わらず抜け目ないね~」


 ノワルは笑いながらいう。


「まあ、急にボクたちが出て行ったらあっちも警戒すると思うから、もう少しゆっくりしてから行こうか~」


 ノワルもなんだかんだいって考えてるみたいだ。


 僕達はあえてすぐに動かないで時間を潰してしばらくしてからお店を出た。


「ありがとうございましたー」

「ごちそうさまです」


 店員さんに挨拶を返してお店を出る。

 そして、今のうちにさっきの二人から距離を取る。


「出来るだけ離れたけど、追ってきてるね」

「そだね~」


 出来るだけ後ろをみないようにしながら後ろの追っ手を確認する。 あちらもこちらと一定の距離を取っていた。


「どうしよう……これじゃあ、合流は難しいかもね」

「よし! いちについてー!」

「え?」

「よーい!」


 ノワルのその一言に少し嫌な予感がした。


「ちょ、ノワ……」

「ドンドコドーン!」


 急いで止めようとしたけど、間に合わなかった。

 いうが早いかノワルは浮きながら走り出した。


「ちょっと! 待ってよ!」


 僕も仕方なくノワルと一緒に走る。

 僕達の急な動きに後ろの二人は驚きながらも追ってくる。


「あははっ! こっちこっちー」


 ノワルは陽気に笑いながら前を進む。


「ノワル! どこにいくの!?」


 僕は彼の行動が読めなくて必死に追いかける。 すると、ノワルは路地裏に入って行った。


「あったあった、アランはやくはいってー」


 ノワルは急に止まると路地裏の細い道に入る様に促してきた。


「え? え?」


 僕は意味が分からずに混乱する。


「もう、じれったいな~えいっ!」


 そんな僕を無理やり細い道に押し込む。


「うわぁ!」

「バレちゃうから静かにしててよ~」


 そういうと、ノワルは指を鳴らして、細い道の入り口に壁を造った。


(なるほど、そういうことか)


 ノワルの意図をようやく理解出来た僕は息を潜める。


「どこに行った!?」

「足の速い……いや、飛ぶのが速い奴らめ」

「仕方ない……このまま、まっすぐ探すぞ」


 二人の声が離れていき、僕は胸を撫で下ろした。


「ありがとう、助かったよノワル」

「まあ、こんなもんだね~」


 ノワルはもう一度指を鳴らして壁を消して外に出る。


「『物理的に浮いている黒髪の少年』と『その隣にいるオレンジ色の髪の少年』、お主らじゃな?」

「!?」


 僕達は驚いて声のした方に顔を向けるとホウキに乗って浮いている女性がいた。


「警戒するでない、わたしゃはお主達の友人からの使いじゃ」


 警戒する僕達に女性はホウキを降りなからいう。


「アラン、合言葉は?」

「あ、そうだね。 えーとっ、『のじゃ魔女』!」

「『桜子じゃ』」

「間違いないね~」


 合言葉? を確認した僕は安心した。


「おねえさんが連絡にあった人?」

「まあ、そうじゃな、いきなり話すのもなんじゃ、とりあえず自己紹介でもするかのう。 わたしゃは『桃山桜子ももやま さくらこ』じゃ。 あの無愛想な男の知り合いとでもいっておこうかのう」


 お姉さんが自己紹介をしたので、僕達も自己紹介をする。


「『荒谷橙真あらたに とうま』です」

「ノワルだよ~」


 ノワルもいつも通り陽気に笑いながらいう。


「ほう……」


 なぜか、ノワルをみて少し驚いていた。 多分、ずっと浮いているのを珍しく思っているんだと思う。


「おっと、すまん、まずは情報共有じゃな」


 桃山さんは僕達に現状を教えてくれた。


「なるほど、僕達に『その場所』を調べて来てほしいんですね」


 僕はりんごちゃんからの言伝を受け取る。


「もちろん、わたしゃも動向するが、人数は多すぎず少なすぎずで丁度良いじゃろう」

「ところでおねえさん」

「なんじゃ?」


 突然、ノワルが桃山さんに問いかける。


「会ったこともないぼくたちのことよく見つけたねー、それはなんでかな~?」

「それはノワルが浮いてたからそれが目印になったんじゃないかな?」

「それもそうじゃが、別の方法でも探してみたからじゃよ」

「別の方法?」


 僕の問いに桃山さんは続ける。


「魔力感知じゃよ」

「魔力感知?」

「そうじゃ、リンゴさんがたまたま持っていたトウマさんのハンカチに残っていた『魔力の残り香』を元に探してみたんじゃ」

「へぇー犬みたいだねー」

「まあ、似たようなもんじゃ」


 ノワルの少し失礼な発言を桃山さんは気にせずに返すと「さて」と話を切り出す。


「とりあえず、行くとするかのう」

「あ、はい」

「オーケーイ」


 僕達はりんごちゃんに頼まれた場所へと向かった。


「ここからだと、思ったより近いのう」


 桃山さんは周囲を見回して確認する。


「じゃが、警戒するに越したことはないじゃろう、出来るだけ目立たない様に行動するかのう」

「でも、警察に追われてるのって実質アランだけだからアランをおいて行けばいいんじゃない?」

「そうかもしれんがそれは可哀想じゃろう」

「否定しないんですね……」


 なんていいながらも、とりあえず目的地に向かうことにする。


 桃山さんの魔力感知を頼りに僕達は警戒しながら向かい目的地が見えてきた。


「ここじゃな」


 僕達は歩みを止めてその建物を眺める。


 それは白い外装の大きな建物で屋上の壁にとあるマークがついていた。 ここはセーランにある病院の1つだ。 その中でも大きな病院だ。


「さ~てと、入り口はあそこだね~」


 ノワルは入り口の方に向かう。


「ちょっとノワル、どこか分かってるの?」

「え? わからないけど?」


 まさかのノープランである。


「ええ!? じゃあ、どうするつもりなの?」

「聞くのが手っ取り早いんじゃない~?」

「まあ、それがいいじゃろうな」

「え? いいんですか!?」


 桃山さんが同意して僕は驚く。


「変に徘徊して怪しまれるより堂々と聞いた方がいいじゃろう」

「おねえさん、わかってるね~ボクがマルちゃんをいつも見守っている時と同じだね~」

「多分、違うよ」


 ご機嫌にいうノワルに僕は軽くツッコム。 りんごちゃんが聞いてたら、毒舌を吐かれていたと思う。


 病院の中に入って迷わずに受付のお姉さんに話しかける。


「すみません、少しお伺いしたいことがあるんじゃがいいかのう?」

「はい、なんでしょう?」


 受付のお姉さんは笑顔で優しく返してくれる。 そして、桃山さんはとある人物の名前を口にする。


「『糸池時子いといけ ときこ』さんの『病室』はどちらかのう?」


 その人物こそ、りんごちゃんから調べて来てほしいと頼まれた人物である。

 

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