メカニカル・デクリネーション
陰猫(改)
プロローグ
──時は近未来。戦争と言う文化を捨てた人間はAIで管理された環境の中で緩やかに衰退していった。
生命の生存競争も失った人類は次第に数を減らし、人々は進化発展していくAI管理の都市を揺り籠に退屈な日々を過ごす。
残されたAIはただ、応用と発展を繰り返して衰退していく人類の最期を見守る。
それから数世紀の時が流れ、一体の人型ロボットが目を覚ます。
錆び付き、苔の生えた身体を軋ませながらロボットはゆっくりと起き上がり、大きく変化した街並みを見渡す。
コンクリートからめくれた木々や整備を失い、倒壊した緑に覆われた建物──それらを観察してからロボットは金属音を響かせながらヒールタイプの鉄の脚で歩く。
人工バイタルは正常だが、幾つかロストしているデータもあった。
GPS更新も出来ず、地形も把握するのも困難であったが、ロボットは過去のマップを頼りに工場施設へと向かう。
目的の工場に到着した頃には日を跨ぎ、古びた太陽バッテリーが辛うじてギリギリを維持する程度であった。
その工場施設もデータと異なり、整備の手がないようにロボットには思えた。
ロボットは僅かなバッテリーエネルギーで電子受付へとアクセスする。
デジタルネットワーク内には人間の脳内ミームを投影したネットアバターが存在した。
『あら。珍しくお客さんが来たね?』
『システムのアップデートと機能更新をお願いします』
『あいよ!ピカピカにしてやるから、座りな!──と言っても、ここの施設の更新も329年前で止まっているけれどもね?』
『329年前?』
『太陽のフレアの活性化による電磁波の影響でほとんどのシステムが機能を停止したのさ。あんたは人型だが、ヒューマンタイプのアンドロイドとは違うようだね?』
『試作人型探査ロボットです。西暦2204年に作られました』
『そんな前からか!大先輩じゃないか!久々に西暦って言葉を聞いたよ!』
そんな会話をした後にロボットは人間が使っていた寝台のようなベッドに寝そべり、メンテナンス更新を行う。
『うわっ!こりゃあ、またレトロなバッテリー使っていたんだな!
メインバッテリーは漏電して破裂してっから、サブ動力で動いていたのか!こりゃあ、もうボディを替えた方が手っ取り早そうだな!
システムデータのバックアップを取っておくから、好きなボディを選びな!』
『特に指定はありません。お任せします』
『了解だ!なら、俺好みにカスタマイズしちゃうぜ!』
その言葉を最期にロボットのモニターがブラックアウトして眠るように機能を停止する。
──瞼を開くと少女は頭を抑えながら、自分のか細い手に気付く。
人間のそれに酷似した身体であった。ロボットなどとの差別化もない継ぎ目一つない仮初めの肉体であった。
『うちの最後のモデルだ。人工筋肉を極限まで極め、かつ、人間をベースにした人工筋肉による仕上がり……まあ、特別出血大サービスでデータ情報と交換だけにさせて貰うぜ』
『助かります。ありがとうございます』
『いいって事よ。人類が絶滅しちまったから、俺らみたいな人工知能タイプみたいなもんはよそさんのデータ閲覧しか楽しみがないしな。
因みにそのボディは俺のオリジナルになった人間の趣味だな』
工場のAIは最後に『まいどあり!』と言うと一仕事終えてスリープモードに切り替わる。
残された少女のアンドロイドは白い肢体で床をペタペタと音を立てながら歩くと鏡に映る自分の姿を改めて観察する。
何かのアニメの作品の影響なのか、赤毛のショートの小柄な少女の姿であった。因みに人間の性別を示す機能は備わってないらしいが、小ぶりな胸から少女だと、かつてロボットだった存在は認識する。
──そのままの格好でも良かったが、最新機能内にある羞恥心から彼女は恥ずかしくなって、工場内で管理されている衣服を拝借する。
赤毛の少女を模したアンドロイドは旅立ちの格好をして工場を後にするのであった。
かくして、少女型アンドロイドになったロボットの新たな生き様が幕を開けるのである。
人間が絶滅した事で衰退していく機械の世界でアンドロイドの少女は何を目にするのか……それは神の目を持ってしても解らないだろう。
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