第49話

「菜々美先生。こちらは?」

 山之内と瀬田は新しい菜々美の新居の片付けを手伝っていた。山之内が探してきた新居に、翔とふたりで見て決めた。都内の外れにある小さな一軒家。マンションも見たが、ここに決めた。一軒家といってもここは賃貸だ。

「山之内。ほんとにありがと」

 手伝ってくれる山之内にそう言うと、聞いていた瀬田が「おれは?」と言うように菜々美を見ていた。

「瀬田もね」

 一階の一部屋は、菜々美の仕事部屋に使うことになった。それなりの広さのあるその部屋は、前のマンションよりも広く、持ってきた本棚が足りなかった。

「ん~……。やっぱり本棚足そうかな」

 部屋の配置を見て菜々美はそう呟く。同じ本棚をまた発注しようかと考えた。

「別にいいんじゃないすかー!このままでも!」

 瀬田はそう言うが、菜々美は本棚に囲まれていたいのだ。

「こっちの壁に本棚がないのがねぇ……」

 仕事机を置いた後ろに大きな窓。右側にも窓。そっちには本棚は置かないのだが、広さが前と違う為、左側の壁に本棚がないのだ。

「菜々美先生。とりあえず発注はまた後でもいいんじゃないですか?こっちの方は本が置けないとなった時に発注するのでも構わないと思いますよ」

 山之内はそう言うと、左側にはひとり掛けのソファーとテーブルを置くように瀬田に言い付けていた。

「ここにこれを置いたら気にならないと思いますよ」

「うん。そうね」

 山之内のことには素直に聞き入れる菜々美に、キッチンの方から「菜々美ー!」と声がかかる。

「ちょっとお願いね」

 菜々美はキッチンの方に向かった。


 キッチンでは翔が食器やキッチン用品などを片付けてくれていた。

「これここで大丈夫かな」

 菜々美にそう聞いてきた翔が、ニコニコとしている。その笑顔に菜々美も嬉しくなってくる。

「好きなように置いていいよー」

「拘りないの?」

「ない」

 キッチンに関しては全く拘りがない菜々美は、前のマンションでも適当に置いていたのだった。




     ◇◇◇◇◇




「では菜々美先生。私たちは帰ります」

 夕方。山之内と瀬田は帰って行った。それを見送ったふたりは家の中へと戻る。


「お疲れ様」

 ある程度片付いた部屋を見渡す。マンションにいた時とは違って、ふたりの物が置かれている。

 リビングには菜々美の部屋にあったソファーとローテーブル、テレビなどが置かれている。キッチンはカウンターキッチンになっていて、菜々美のマンションにあったダイニングテーブルなどはいらなさそう。

「翔」

「ん?」

「ほんとに良かったの?」

「なに」

「翔が持っていた家具とか処分しちゃったでしょ」

「ベッドがふたつあっても仕方ないだろ。冷蔵庫とかもさ」

 翔のベッドや冷蔵庫、洗濯機などはすべて処分してきた。ふたつあっても邪魔になるだけだし、菜々美の方のがまだ新しくキレイだった。ただ翔はCDプレイヤーは持ってきていた。

「今は殆どCD買わないけどさー。これだけは」

 と言って寝室に置いた。


「菜々美」

後ろから菜々美を抱きしめて首筋に唇を押し当てる。

「これからよろしく」

「うん……」

 改めてそう言われると恥ずかしさで顔が真っ赤になる。だけど、ここから菜々美の新しい生活が始まる。




     ◇◇◇◇◇





「翔……」

「ん?」

「大好き」

「知ってる」

「これからもずっと……」

「ずっと?」

「うん。ずっと」



 ふたりはそう言い合いキスをした──……。





「大人初恋」     END

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