第7話

 その後はどうやって帰ってきたのか、翔と何の話をしたのか覚えていなかった。

 そのくらいの衝撃的なことだった。




「私と……中山くんが……?」

 何だか信じれない話で、頭の中がふわふわしている。

 リビングのソファーに座り、何気なくつけたテレビの内容も頭に入らない。こんな状態で仕事も出来るわけなかった。

「どうしたらいいの……?」

 高校生の頃、好きだった人。だけど、今も好きなのかは分からない。忘れられない人には変わらないが、その思いは好きな気持ちなのかは分からない。





     ◇◇◇◇◇




「え!?」

 かよは驚いた。まさかそんなことになってるとは思ってもいなかった。

「中山くん、やるねぇ」

 と、茶化すくらいだ。

「で、あんたはなんでそんな顔してるのよ」

 微妙な顔をしている菜々美がおかしいのか、笑いながら言った。

「なんで笑うのよ」

「あんたのその顔が面白い」

「かよっ」

 ふふっと笑い、菜々美を見る。

「でもどうするの?」

「え」

「中山くんのこと」

 どうするのと聞かれて、菜々美はどうしたらいいのか答えに詰まる。

 自分で自分が分からない。どうしたらいいのか決めかねてる。


「……どうしたらいいと思う?」

 かよにそう聞いてみる。聞かれたかよは、菜々美を見た。

「菜々美の気持ちはどうなの?今も好き?」

「………分からない」

「でも中山くんのことを忘れたことはないんでしょ」

「うん……」

 忘れられる筈がなかった。告白して振られたわけでもないから、次へと進めなかったのだ。


「ま、少し考えてみなよ」

 こういう時、かよは適当なことを言わない。そこがかよといて好きなところだ。

「仕事も頑張ってね」

 毎日のように顔を出しては適度話をし、帰っていく。

 かよの後ろ姿を見送って、また仕事部屋に籠る。書けるところは書き進めておこうと、パソコンを起動させた。




     ◇◇◇◇◇




 暫く、キーボードを叩く音が部屋に響く。マンションにひとりきり。静かなものだ。静かな空間で菜々美は小説を書く。たまに音楽をかけながら書くのだが、今日は静かな空間で書きたい気分だった。

 そんな空間を遮るように、菜々美のスマホが鳴り出した。


「……もしもし?」

 迷惑そうに電話に出るのは今書いてる小説が、乗ってるから。止めたくはなかったのだ。

『菜々美先生!』

 担当編集者の山之内だった。

「なに?」

 迷惑だと言わんばかりの声で言うと、山之内はマズイところにかけたと分かった。

『原稿、どうですか?』

 マズイと分かっていながらもそう聞くのは、それが山之内の仕事でもあるから。

「今書いてる」

『書けますか?例のところ』

 その言葉は詰まる菜々美を分かってるのか、山之内は笑った。

『だと思って、そういうDVD、送っておきました!』

 と元気よく言った山之内は電話を切った。



(そういうDVDって……?)

 頭の中に過る嫌な予感。それは大当たりだった。

 その日の夕方に届いた山之内からの荷物。ダンボールの中を開けた瞬間、脱力した。

「山之内~っ」

 目の前にはいない担当編集者の名前を恨めしそうに呟く。

「これをどうしろとっ!」

 ダンボールの中身は所謂、アダルトDVDがいくつか入っていて、おまけのようにそういうグッズが入ってる。

「絶対、面白がってる」

 山之内は菜々美が未経験だとは知らないが、経験は浅いと思っている。だからか、こういうものを送って反応を面白がってるのだろう。半分は仕事の為に。半分はおフザけで。

 菜々美は直ぐに抗議の電話を入れた。


『嫌だなぁ。フザけてなんかいないですよ~』

 電話の向こうではクスクス笑う山之内。

『参考にしてください~』

「参考……って!」

『あ、入ってるグッズは是非とも使ってみてくださいね!』

 クスクス笑う山之内は絶対面白がってる。

「使えるかっ!」

 珍しく菜々美は大声を出す。そして再び脱力感でいっぱいになった。


 

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