第90話 カラオケ交流会(その5)

 仁が老婆の部屋探しを手伝っていた頃、クラスメイトが集まっている部屋では、仁抜きでも交流会が進行していた。


「兼田クン遅いわね。何かあったかもしれないから、私、様子を見に行こうかな?」


 なかなか戻ってこない仁を心配して、日花里が音羽に対してボソリと告げた。


「別に行かなくても良いわよ。どうせ大きい方なんでしょ」

「へぇー。そういうことを気軽に言える仲なんだ」


 日花里の言葉に音羽は反射的に答えてしまった。それを聞いた日花里は、仁の座っていた席に移動して興味ありそうな感じで尋ねた。


「べっ、別にアイツとはちょっとお昼ご飯を一緒に食べた程度の仲で、親しいわけじゃないわよ」

「ふーん、親しくないのに一緒に食べたんだ。私も今日は一緒に楽しく兼田クンと昼ご飯を食べたんだよ」


 日花里は仁との仲を否定する音羽に対し、揺さぶりをかけるように言った。


「この部屋に入ってずっと月見里さんと兼田クンの様子を見ていたけど、あまり人と接しない2人が仲よさそうに話しているのを見ると、怪しんでしまうんだよねぇ」

「うっ」


 クラスの中で人と接するのを拒んでいる音羽にとって、仁だけはある程度会話ができる相手であった。日花里が怪しむのは無理もないと思い、音羽はどのように言い返して良いか悩んでしまった。


「とっ、とにかく、兼田君とは何でもないの」

「じゃあ、私、兼田クンに告白しちゃおうかな」

「えっ?」


 日花里の言葉を聞き、音羽は何か心の中につかえるものを感じた。


「……と言いたいところなんだけど、私以外に兼田クンを狙っている子がいるから抜け駆けだと思われたくないのよねぇ。例えば、あの子とか、あの子なんかもそうだよ」

「兼田君ってそんなに人気あるの?」


 音羽は日花里の言葉を聞き驚いてしまった。クラスでの目立たない陰キャ2トップと言われている音羽と仁であったが、仁を狙っている女子が複数いることを知った。


「うーん、少し前に髪型を変えたでしょ? 髪で隠れていて今までわからなかったけど、兼田クンって実はすごくイケメンだったんだよ。注目されるようになったのはその辺りかな。もちろん私もその中の1人だよ」

「そうだったんだ」


 音羽は、仁と話すようになったのは髪型を変える前で、あのことが知られ、半ば強引にデートの約束をさせられたため、彼に敵意しか向けていなかった。そのため仁のことは少し髪型が変わった程度の認識でしかいなかった。


「そういう訳だから、月見里さんも兼田クンを狙うライバルが他にもいることを覚えておくのだよ」


 日花里はわざとらしく偉そうな口調で音羽に話した。


 ぷるるるる


 音羽と日花里がそのような話をしていると、インターホンの呼び出し音が部屋の中に響き渡った。


「はい、もしもし。はい、はい、わかりました。延長は無しでお願いします」


 ガチャ


「みんなー、そろそろ終わりだって。延長はしないって言う約束だからそう伝えておいたよ」 


 インターホンの近くに座っていた女子が先ほどの電話の内容を皆に伝えた。学生の団体であるため、日が暮れた後にカラオケをしていると問題がおこる可能性がある。そのような事情を考慮して予め皆で延長しない方向で話をしていた。それに従いインターホンを受けた女子は、そのまま店側に延長しないことを告げた。


「さて、とりあえず集金をするわよ。えっと、総額……だから、1人2000円ね」


 インターホンを受けた女子は、そのときに金額を伝えられたため、その場でスマホを取り出して割り勘計算を始めた。テーブルの上にはいつの間にスナック菓子やポテト、唐揚げなどが置かれていて、どさくさ紛れに注文されていた。その分が加算されて1人当たりの金額が跳ね上がっていた。

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