第67話 3回目のデート(その8)

「運転はどちらがしようか?」

「そうねぇ。私が運転をしてみても良い?」


 遊戯用カートの乗り場に到着し、仁と頼子はどちらが運転するか相談をしていた。2人用の遊戯用カートは肩を寄せ合うように座るため、仁は頼子と身を寄せ合って座れるだけで満足できそうであったため、頼子が運転席、助手席のどちらに座ることを選択しても受け入れるつもりでいた。


「それじゃ、月見里さんが運転で」

「ええ、実は私、運転免許を持ってるし運転は自信があるのよ」

「えっ? 運転免許?」

「あっ! げ、原付きね」


(危なかった。自動車の運転免許って18歳にならないと取得できないのを忘れていたわ)


 頼子は自動車の運転免許を所持していたが、仁や音羽の年齢では取得できないのを思い出し、咄嗟に付帯で運転できる原付きの免許だと言い直した。ちなみに月見里家では車を維持できるような余裕がないため、ペーパードライバーと化した頼子の運転免許証には優良運転者を示す金色の帯が入っていた。


「へぇ、月見里さんって原付きの免許を持っているんだ。学校では禁止されていないし僕も取得してみようかな」

「え、ええ。日常生活で乗らなくても、交通ルールを勉強する切っ掛けになると思うから、挑戦してみるのも良いかもしれないわ」


 仁が通う学校では原付き免許の取得は禁止されていないため、通学や日常の移動手段として原付きに乗っている生徒達もいる。だが、親を説得したり、原付きを購入したり維持する費用面から見て、実際に乗っている者は少数派であった。


「2輪と4輪は違うと思うけど、運転免許を持っているのなら安心できるね。月見里さんに運転は任せたよ」

「ええ、任されてちょうだい」


 仁は運転免許を持っているという頼子の言葉を信じ、運転を任せることにした。


「操作方法の説明は必要ですか?」

「大丈夫よ」

「承知しました。ではシートベルトを着用したのを確認してからスタートさせます」


 遊戯用カートの運転席に頼子が座り、助手席に仁が座ると係のおじさんが頼子に操作説明が必要か尋ねた。頼子は自信満々に説明は不要だと答え、2人はシートベルトを着用した。


「ベルトの着用を確認しました。では行ってらっしゃい」


 係のおじさんがシートベルトの着用を確認した後、遊戯用カートに掛けられていた手用ブレーキを解除した。


「さあ、いくわよぉ」


 きゅるきゅるきゅるきゅる


 頼子はいきなりアクセル全開でスタートさせ、タイヤから路面との摩擦による白煙が上がっていた。


「うわぁああああああ」


 突然シートに押さえつけられるような力が加わり、遊戯用カートは速度を上げていった。


「あはははは。たーのしーぃ」

「うぎゃぁああああ」


 楽しそうにハンドルを握っている頼子に対し、仁は必死に前のバーを掴み、あらゆる方向から襲ってくる揺れに耐えていた。

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