第47話 ストーカー?(その7)
「お母さん、急に変な声を出してどうしたの?」
「なっ、何でもないわよ」
音羽は驚いた声を出した頼子を不思議そうに見ていた。
「前にお母さんが身代わりになって、兼田君に戦利品まで確保してガツンとやったでしょ?」
「そっ、そういえば、そういうこともあったかなぁ」
(音羽はイルカのぬいぐるみを兼田君に買わせたことで、作戦が成功したものだと思っているのね。その次の週も会っていたなんて言えないわ)
音羽は仁に弱みを握られてデートに誘われたとき、身代わりになった頼子が上手く痛い目に遭わせたものだと思い込んでいた。そのことを知った頼子は、この場で詳細を語れないと思い、話を合わせてしまった。
「一応確認だけど、お母さんは兼田君に正体を明かしたの?」
「ごめんなさい。なかなか言い出せなくて、音羽だと思い込んでいたみたい」
「そうなんだ。隠し通せたなんて、お母さんの演技力って凄いんだね」
(ごめんなさい。ほとんど素で接してました)
頼子の演技力に感心していた音羽に対し、ほとんど演技などせず、仁に対し素で接していた頼子は心の中で謝罪していた。
「その兼田君なんだけど、先週は挨拶程度だったのだけど、今週になって私に話しかけようとするのよ。あまりにも必死だったから、仕方なく私が折れたっていう感じ」
(学校では話しかけないように言ったのだけど、きっと私と話がしたくて、音羽に話しかけようとしていたのね。兼田君にすごく申し訳ないことをしてしまったなぁ)
音羽の話を聞き、一緒の時間を過ごしたいと思う仁の気持ちが頼子にも伝わってきた。
「はぁ、学校で友達を作りたくないんだけどなぁ」
「音羽はどうしてそう思うの?」
「だって、友達ができたら放課後や休日にどこか行こうって話になるかもしれないわ。そうしたら余計な出費が増えるでしょ?」
音羽は学校で友達を作らない理由を頼子に話した。
「家計のことを考えてなのね。本当は音羽に心配しないでもっと友達を作りなさい。と言わなければならないのだけど、その考えを聞いてしまうと強く言えないわ。辛い思いをさせてしまって本当にごめんなさい」
頼子は月見里家の家計を考えると、音羽が友達と遊ぶためにお金を使ってしまうと、月見里家の家計に響くことは明白であった。そのため音羽に対して強く言えるような立場ではなかった。そのような感じの話をしながら2人は夕食の時間を過ごした。
「ふん、ふん、ふん」
翌朝、頼子は音羽に持たせるための白おにぎりを作っていた。夕食の残りが出たときは、おにぎりの中に詰め込んだりするが、そういう日は希で、この日も具材が入っていないシンプルなものであった。
(兼田君が、私の握ったおにぎりを食べてくれると良いなぁ)
頼子はそう思いながら、いつもは2つのところ、3つおにぎりを握った。
「あれ? お母さん、今日のおにぎりっていつもより多くない?」
「兼田君と一緒に食べる約束をしているんでしょ? 1個でも分けてあげると喜ぶかも知れないわよ?」
「うーん、昨日は美味しそうに食べてくれたけど、今日は昼食を持ってくるように言ったし、どうかなぁ」
頼子は仁にお手製のおにぎりを食べて欲しくて、いつもより1つ多くおにぎりを用意した。
「音羽、はい、どうぞ」
「ありがとう、お母さん」
「それじゃ、行ってくるわね」
「行ってらっしゃい、お母さん」
頼子は音羽に白おにぎりの入った箱を渡し、仕事に向かうため家を出た。
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