第41話 ストーカー?(その1)

(次の約束を話題に出さなかったのは、何か至らぬ点があって嫌われてしまったのかな。でも、別れるときの様子を見ていた限りでは、そういう感じはしなかった気がするのだけど……)


 翌日、仁は授業中に前の席に座っている女子の後ろ姿を見ながら悩んでいた。言うまでもなく、その女子の名前は月見里音羽であった。仁が登校したとき、彼女は先に席に座っていて、自然な感じで挨拶をしたが、音羽は興味なさそうな感じで仕方なく挨拶を返しただけであった。


(初めてのデートのとき、学校では話しかけないでって言っていたけど、今日は何か拒まれているみたいで、すごく話かけづらい。はぁ、昨日は凄く話しやすかったのになぁ)


 仁は授業の合間にある休憩時間を利用して、音羽に話しかけようとしたが、まわりの人に対し、接触を拒むようなオーラが出ていて声を掛けられなかった。


(そう言えば月見里さんって、僕みたいな男子もだけど、女子とも接触しようとしないんだよなぁ)


 仁は音羽が他の女子と話しているところをあまり見かけたことがなかった。初めてのデートが終わってから、彼女のことが気になり様子を見ていたが、友達と呼べるような存在もいないようであった。


「それじゃ、今日はここまでだな」


 そのようなことを考えていると、午前の授業が終わった。教師が教壇の教科書を閉じると同時にチャイムが鳴り、昼休みに入った。教師が教室から出ていくと、急に騒がしくなり、気の合う同士でグループを作り、それぞれの場所で昼食をとるための行動に移った。


(よし、今度こそ月見里さんに声を掛けるぞ。って、いない)


 仁は勇気を出して音羽に声を掛けようとしたが、既に前の席は空席になっていた。


「はぁ、月見里さんって昼休みになると、すぐにどこか行ってしまうんだよな」


 仁は1週間、学校で音羽のことを見ていたが、昼休みに入るとすぐ、どこか行ってしまうことを把握していた。だが、どこへ行ったか調べるために跡を付けるというのは、良くないと思ってしていなかった。


「仕方ない。学食でも行くか」


 仁は毎回パンでは飽きるため、この日は久しぶりに学食へ行くことにした。




「えーっと、どれにしようかな」


 仁は学食に到着し、食券販売機の前で何を食べようか考えていた。この学校の学食は食券式のセルフサービスになっていて、先に食券を購入して半券をカウンターで渡し、できあがったら食券に書かれている番号が呼ばれ、注文した品を受け取るという、よくある方式である。昼休みという限られた時間で利用するため、メニューは丼物、麺類など作る工程を簡略化したシンプルなもので、定食などは存在しなかった。


「まあラーメンで良いか」


 仁は食券販売機にお金を入れてラーメンと書かれたボタンを押し、食券を購入した。


「できたら番号を呼ぶからね」


 仁は食券の半券を学食のおばちゃんに渡してできあがるのを待った。そして程なくして仁の番号が呼ばれ、トレイにのったラーメンを受け取った。


「水を用意してから箸、レンゲスプーンを取って、コショウを少々っと」


 仁は受け取りカウンターの横に置かれているコップを取り、給水器から水を汲み、箸とレンゲスプーンをトレイに乗せ、好みで使用する調味料が置かれて棚の中からコショウを少々振りかけて味を調えた後、空いている席を探した。


(友達とかいれば先に席を押さえてくれるけど、ボッチの僕は受け取ってからでないと席探しができないんだよなぁ)


 複数で学食に来ていれば、食べ物を調達する者と席を確保する者に別れて行動できるが、仁は1人で学食に来ているため、それらを同時におこなえなかった。

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