第3話 夕食の支度(月見里家にて)
「それじゃ、土曜日はバイトがあるから、次の日曜日でいい?」
「それでいいわ」
音羽は教室の後ろに座っている男子のクラスメイト、兼田と成り行きからデートの約束をしてしまった。
「はぁ、どうしてこうなってしまったのかなぁ」
音羽は、あのとき何故おならを我慢できなかったのか後悔していた。それさえなければ好きでもない男子とデートの約束をすることもなかったのだが、弱みを握られてしまったため、嫌々ながら受けることになった。
「兼田君に費用を負担して貰うから、余計な出費は避けられそうだけど、その後、追加で私の体を求めてきたらどうしよう」
音羽は兼田とは席が前後というだけで特に接点もなく、今まで話したこともない人物であった。そのため彼が何を考えてデートの話を出してきたの理解できなかった。深く考えすぎたため、体が目的ではないかとさえ思えてきた。
「約束を守らなかったら、あのことをバラすかもしれないし、行きたくないけど、行くしかないよね」
一般的に考えるとおならの音を聞かれる程度は些細なことだが、音羽から見ればとても恥ずかしく、他の人に絶対に話して欲しくない案件であった。彼女は一人で下校している途中で、兼田と約束してしまったことを後悔していた。
「ただいま」
音羽は、自宅に帰った。彼女の家は、1部屋しかないボロアパートで母親と2人暮らしであった。母は、父と離婚した後、音羽を引き取ってこのアパートに引っ越してきた。母親はパートの仕事をしているため、音羽が「ただいま」と言っても、帰ってくる返事はなかった。
「お母さんが帰る前に、ぱぱっと夕食の支度をしておかなきゃ」
音羽は母親が帰宅するまでに、手慣れた様子で夕食の準備に取り掛かった。
「お母さんの給料前だから、冷蔵庫の中が寂しいし、お米も僅かしかない。うーん、何を作ろうかな」
月見里家は、母親のパート収入と音羽の僅かなアルバイト収入で生活を営んでいた。その僅かな収入でさえも、父親の残した多大な借金を返済するために当てられ、残った雀の涙ほどのお金でギリギリの生活をしていた。音羽は苦労している母親に迷惑をかけないよう奨学金をもらって学校に通っていた。そのような事情で給料前の月見里家は、乏しい食材をやりくりして何とか食べていた。音羽は冷蔵庫を開け、僅かに残っている食材で何を作ろうか考えていた。
「よし、こんなものね」
「ただいま」
「お母さん、おかえりなさい」
音羽が夕食の支度を終えた頃、彼女の母親である
「いつも夕食の支度をさせてごめんなさいね」
「今日はバイトもないし、先に帰っている私が作るのは当然よ」
「本当に良い子に育ったわね」
「おっ、お母さん」
仕事をして疲れた表情で帰宅した頼子は、夕食の支度をして待っていた娘の音羽にとても感謝していた。
「用意ができたところだから、夕食にしましょう」
「お母さんも手伝うわ」
頼子は着替えを済ませ、音羽と一緒にできあがった夕食を食卓に並べた。
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