第3話
『この世界の魔法は火・水・風・土・光・闇・時空という七つの属性によって構成されている。魔法の練達において一番大切なのは、自分の得意な属性に絞って才能を伸ばしていくことだ。得意属性とそうでない属性では、成長度合いが著しく違う。故に魔法を覚えたいと思った諸君は、まず最初は測定球を使って自分の得意属性を確かめなければならない』
魔法の書の序文を読んだところで一旦読むのをストップし、言われた通りに測定球を用意することにした。
これは書斎の中に埃を被って置いてあったので、簡単に用意することができた。
見た目は手乗りサイズの地球儀に近い。
球体の周囲を囲うように金属の板が張り巡らされていて、持ち手のところにボタンのようなものがついている。
「えっと……ここに手を触れればいいんだよな」
指示の通り、測定球のボタン部分に手を触れる。
なんでもこいつの光り方で得意属性とおおよその魔力量がわかるらしいけど……。
するっと、指先から何かが吸い取られるような感覚があった。
なるほど、これが魔力か……。
今の感覚を忘れないようにしようと反芻していると、測定球が光り出す。
赤色に光り、その中に青色が混じり、緑色、橙色、白色、黒色、紫色が混じっていき……色んな色をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたような謎の光が、視力を奪うレベルの殺人光線で放たれた。
「うおおっ!?」
反射で目を閉じると、網膜の裏で光の爆発が起きた。
ゆっくりと目を開けると、そこにはブスブスと煙を上げる測定球がある。
「こ、壊しちゃった……?」
試しに魔力をもう一度流そうとするが、何度ボタンを押しても一切反応してくれない。
どうやら完全に壊してしまったようだ。
ま、まあいい。よくはないけど……一旦棚上げしておこう。
七色に光ったって事は……とりあえず七属性全部は使えるってことでいいのかな?
これだけ光が強いってことは、魔力量にもかなり期待が持てそうだ。
とりあえず壊れた測定球を何事もなかったかのように戻しておく。
うちの家系に魔法を使える人間は一人もいなかったはずなので、まあバレないだろう。
バレない……といいな。
ちょっとだけビビりながら、読書を再開することにした。
「――ふぅむ、とりあえず座学はこれくらいにするか」
魔法学基礎を読み終えたところで、実技に移ることにした。
何せさっきの測定球爆破事件の結果、俺にはかなりの量の魔力があるらしいことがわかっている。
魔力があればその分練習できる回数も増えるだろうから、実地で試していった方が早いだろう。
俺は基本的に、説明書を読まずにチュートリアルもすっ飛ばしてゲームを始めるタイプだ。 既に身体がうずうずしてきている。
「外でやりたいが……人目が怖いしこのまま自室でやるか」
水魔法や風魔法みたいな処理が簡単な魔法にすれば、問題も起こらないだろう。
「えーっと……?」
さっき読んだ本の内容を頭の中に思い浮かべていく。
――この世界の魔法は、簡単に言えば実際の物理現象を魔力というエネルギー源を使って引き起こすというものだった。
その工程は、ざっくり以下の三つに分けられる。
1 魔臓と呼ばれる臓器から、魔力を必要な分だけ循環させ、体外に押し出す
2 押し出す際に明確な魔法のイメージを行う
3 魔力を魔法に変える
というわけでまずは1からやっていくことにしよう。
先ほど測定球に魔力を流し込んだおかげで、魔力というものの存在に関してははっきりと知覚することができている。
今まで感じ取れなかったのが不思議なほど、自然に親しむことができていた。
魔臓の位置は膀胱より少し上のあたりの下腹部にある。
そこから魔力を、魔法に必要な分だけ取り出していく……適量がわからないから、とりあえず多めにしておくか。
続いて取り出した魔力を体内でぐるぐると回転させていく。
すると身体が芯の方から熱くなってくる。
熱が行き場を求めているのがわかる。
俺はまるで最初からそのやり方を知っているかのように、手のひらを前に出した。
グルグルと循環していた魔力が腕を通り手のひらへと向かっていく。
事前の想定通り、使うのは風魔法。
手のひらからそよ風を出すイメージで魔法を使う。
測定球に触れた時と同じ、自分の身体から魔力が抜けていく感覚。
続いて自分がしていたイメージに従い、魔力が魔法へと変質していく。
そして……ブワッとすごい勢いで前髪が宙に浮いた。
そよ風と言うより強風だ。オールバックになるレベルで髪がめくれ上がってしまった。
事前に魔力を込めすぎていたせいか、想定より大分勢いが強いな。
(ただ一発で成功したのはありがたい……どうやら俺には、魔法の才能があるみたいだ)
魔法学基礎では魔力の知覚ができてから初級魔法を使えるようになるまでに二週間で済めば早い方と記されていた。
それをこれだけ一瞬でできたとなれば……期待せずにはいられない。
こうして俺は魔法の練習にのめり込みながら、幼少期を過ごしていくことになる――。
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