第10話 美人さんことジニアのお礼
「じゃあさ――俺が君を強くしてみたい」
その言葉に、ジニアは絶句した。
「え…?ちょ、ちょっと待ってくださいまし。なぜそんな話になるのですの?」
「それはだな、俺の手で誰かが成長するのを見るのが好きだからだよ」
前世であったダウンロード不要の無料ゲーム。その全てが成長系ゲームだった。
俺はそれらに心奪われたことがあった。
自分の手でキャラクターを育てて強くする――そんな仕様にハマった。
ここでジニアにこれをお願いしたのは、そんな姿を見たいからだ。
「そうですわね…あなたはそれでいいですの?」
「いいよ」
「ならOKですわ。あなたに強くさせていただきますわ」
「これからよろしくな」
「こちらこそ」
ジニアは二つ返事で了承した。
「となると、鍛えるための場所を決めないとですわね」
その問題があったか…。
ジニアの予定がない時間帯でないと来れないことも考慮しないと。
「そうですわ!学園の練習場を使えばいいのですわ!」
「生徒じゃないと入れないでしょ」
「わたくしは生徒なのですわ」
「え」
そ、そうなのか…てっきり俺へのお礼のためだけにここに来たのかと思っていた。
「入れるならそこにしますね」
「分かりましたわ」
「あ、そういえば俺はまだ合格が決まっていないんだ」
まずい。
合格する前提でここまで話したから、もし不合格だったら会う顔がない。
が――
「合格に自信はありますの?」
「まあね」
――たぶん合格するので大丈夫。たぶん大丈夫だ。
「そういえば、ジニアさんは生徒だって言ったけど、何年生ですか?」
「二年生ですわ」
おっと、どうやらジニアは俺の先輩だったようだ。
これからはジニア先輩と呼ぼう。
「学園生活はどんな感じなんですか?」
「成績は上位ですわ。でも、少し傲慢なクラスメイトもいまして、他の人と成績を張り合って負けては卑怯だと文句を言う――」
「もしかして俺の兄とかですか?」
「――そうですわよ。あなたの上の方の兄、クラントですわ」
フェルノから聞いていた傲慢な長男だ。
俺の兄は家族内だけでなく、他のところでも嫌われているようだ。
「幸い、ダザクルがなんとか抑えてくれるのですけれど…」
遅れたが紹介しよう。
長男、クラント・フォン・ジェトラルに、次男、ダザクル・フォン・ジェトラルだ。
名前だけ見ると、長男の方が懐柔的そうなのだが、そうでもない。
むしろ逆なのだ。
「すみません、俺の兄が」
「いえ、あなたの罪ではありませんわ」
話が脱線してしまった。今はお礼のことを話しているんだった。
「さっきの話に戻しますけど、いつ会うんですか?」
「では、毎日昼休みはどうですの?」
「それでいいんじゃない?ちょうどお互い空いてるし」
「ならそれで決定ですわね。…時間もないので、わたくしはここまでとさせていただきますわ。これは今回だけの奢りですわよ?」
そういってジニア先輩は、ギリギリお金がチャラになる量を渡してきた。
別に俺の奢りでもいいんだけどさ。お金も有り余ってるから。
「お先に失礼しますわ」
俺は一人になった。
周りを見ると、もう人はあまりいない。外を見ると僅かに薄暗くなっていた。
…待って何時なの今は。
時計を確認した。ちなみに時計も魔道具だ。
『17:32』
「まずい!寮に戻らないと門がしまる!」
正確には門ではなく巨大な扉なのだが、俺はその微妙な違いに気づかない。
そのまま走って寮内に滑り込む俺なのだった。
* *
俺はランドリックにここまでの経緯を話した。
「そうか。公爵家が男爵家の、しかも長男にお礼ね…。珍しいこともあるんだね」
「珍しいって、何が?」
「あそこの長女は他人に何かを贈ることはしないんだ。物ではなかったといえ、今回のようにお礼をしようとしたのは見たことがない」
「へー、そうなのか」
誇り高いってだけじゃない?
普段は相手に対して何もしない。
もし助けられたらしっかりと何かしらお礼をし、もし攻撃されたら報復する。
そんな生き方をしているのでは?
そのことを話すと、ランドリックは少し驚いた。
「…確かにそうかもしれない。そういう考えで彼女があんな行動をしたのなら、全て納得がいく…ありがとう、ようやく彼女の家の特徴が分かったかもしれない」
「お、おう…どういたしまして…?」
なんだか良くわからないけど、どうやらランドリックの助けになったようだ。
そして俺たちは寝落ちするまでジニア先輩がしたこれまでのことについて話し合うのだった。
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