図書館にいる君は、いつも本を読んでいる

小日向 雨空

第1話 読書の虫

「……また、いたね」

「……だれ?」

「クラスメイトのことも忘れるなんて酷いじゃないか」

 そう言って俺は息を吸う。

「俺はたちばな碧斗あおと。同じクラスメイトだから覚えておいてくれ」

「……私は秋原あきはらなぎ

 今にも消えてしまいそうな細くてやわらかい声は、俺を刺激した。

「おう」

 彼女と軽い自己紹介を交わす。

 俺はこのクラスで唯一彼女と図書委員になった身なので、忘れられたら困る。

「凪さんって、いつも本読んでるよな。なんの本を読んでいるの?」

「いろんな本。特にラブコメが好き」

 言葉を交わしながらも、彼女は本に釘付け状態である。

 図書室のカウンターに座ってかれこれ15分は経つ。

「…………」

「…………」

 学校の外に成っている木の葉が喧騒していく中で静かな図書室が好きだ。

 ほとんど誰とも話さず、ただ静かな空間に居座るのが好きだったりする。

 ふと、彼女が呼んでいた本に目をやる。

「お、この本は読んだことあるな。ヒロインが可愛いよね」

「そうだね、私的にも可愛いと思う」

「凪さんはどのシーンが好き?」

「私は、ここのヒロインが——」

 そんな小説にまつわる会話をずっとする。

 俺の一日の楽しみはこれでもあったりする。

 そしてその会話をしばらくして予鈴のチャイムがなる。

「ん、そろそろ図書室ここを閉めなきゃ」

「もうそんな時間か。はやいな」

「ほんとにね」

 本を片付け、図書室の鍵をかける。

「よかったらまた話してくれな」

「ん、いつでも」

 今にも友情が芽生えそうな感じのシーン。

 あながち間違ってないけど。

 そして図書室の鍵を閉めて廊下に出る。

「次の授業は現代文だっけ。凪さんの得意科目なの?」

「ん。それなりには。ただ、『背景を読み取りなさい』とかは苦手。人の心情って難しい」

「本の虫の凪でも苦手なものが意外と会話いいものだった」

「心理学はできない」

 ぷぅ、とほほを膨らませながら、共に教室に向かう。

 教室は休み時間にはいった時から喧騒していた。

「うるさい……」

 凪さんはこの人のうるさいのが苦手なようだ。

「もしかして、うるさいのが苦手で、いつも図書室にいるのかな?」

「……そうだとしたら?」

 少し睨んでこちらを見てくる。

「いや、俺もあまり人が多いところは得意じゃないからさ。家だと基本的に静かだし」

 凪さんは一瞬呆然として、ふっと笑う。

「そうなんだ。見た目の割には、結構静かな場所が好きなんだね」

「見た目の割とは結構酷いんじゃないか?」

 凪さんは何がおもしろかったのか、クスクスと笑っている。

「見た目はたしかに『流行に乗ろうとしている人』なんだけどね。とにかくチャラそう」

「たしかに金髪だと見た目良くないかな……」

「そうだね、見た目はあんまり好印象受けないかも。たとえば——」

 そう言って凪さんからのアドバイスを貰う。

「——こんな感じにすると、もっといい印象を受けるよ」

 そうアドバイスを受けて、明日から改善することにする。

「なるほど……。あしたからそうしてみるね」

「うん。そうしてもらった方が私も関わりやすいと感じることがあるよ」

「そうしてみる」

 そう言って会話が終わると、全員の視線がこちらに向いている。

「…………」

 青筋を動かし、苛立ちを隠せない先生。

 黒板を後ろさし、苛立ちを隠せない様子だ。

「あ、えっと……」

 凪さんが戸惑っていると、先生が指名してきた。

「ここの問題を、凪。授業中の会話してたんだから解けるんだろうな」

「あ……えっと……」

(ここは理系男子である俺に任せて欲しい)

(う、うん……)

「先生。ここは俺にとかせてください」

「お、おう……」

 そう指名されて、計算を始める。

「xは23。yは11で解は無限に発散していきます」

「せ、正解……。わかるとはいえど話は聞くように」

「うい」

(助かった……)

(あ、ありがとう……)

 この日以降、凪さんと仲が良くなった気がした。         

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図書館にいる君は、いつも本を読んでいる 小日向 雨空 @KohinataUla

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