第4話 冒険者協会へのクレーム

「も、申し訳ございません。本件については現在確認中でして……」


 虎ノ門の高層ビル最上階にある日本冒険者協会では朝からずっと、電話の呼び出し音が鳴り続けていた。


 広報担当の袴田は薄くなった頭皮に玉の汗をかき、電話越しに何度も頭を下げている。


「ExtremeChatは我々の管轄外ですので……アカウントのBAN等についても、あちらのサイトに問い合わせてもらえますでしょうか……。はい、大変お手数ですが、よろしくお願いいたします……」


 やっと受話器を置いた袴田は次の電話が来る前に立ち上がり、慌てた様子で打ち合わせ室にむかった。入口のタブレットには「A級冒険者次期戦略会議」と表示されている。


 コンコンコン。と三回扉をノックすると、少し不機嫌な女性の声が返ってきた。袴田は更に額から汗を流しつつ、扉を開けて一歩中に入る。


「会議中失礼します!」

「どうしたの? 何か緊急事態?」


 黒縁メガネを掛けた少しきつい印象の美女が袴田を睨む。その正面にはアイドル風の若い男が座っていた。


「はい。朝から複数の団体からクレームが入っています」

「クレーム? 一体何の件かしら?」


 女は眉間に皺を寄せる。


「八塚理事長はExtremeChatというアダルトサイトをご存知でしょうか?」

「エクストリームチャット? 知らないわ」

「こーいうサイトなんですが……」


 袴田はスマートフォンを取り出すと、ExtremeChatを開いて八塚の顔の前にもっていった。


「ちょっと! 何を見せるのよ!?」

「違うんです! 理事長! よく見てください! この男を!!」

「裸じゃない!」

「いえ! ブリーフは穿いてます!」


 八塚は顔を背けたまま会話を続けた。


「で、この男がどうしたのよ?」

「アダルトサイトで完全無修正のダンジョン配信を始めたのです!」

「えっ!? モンスターの死骸にもモザイクがかからないってこと?」

「そうです……!! しかも、新しく発生したソマリアダンジョンを単独で攻略を進めているのです……!! あまりに残虐なシーンが連続することから、青少年団体や宗教団体等からクレームの嵐なんです」


 口元に手を当て、八塚は考え込む。


「男の名前は? 日本冒険者協会に所属しているの?」

「名前は諸越大徳。24年前に登録があり、C級まで上がっています。最後に日本のダンジョンに潜った記録は20年前です」

「旧世代ね……。全く面倒だわ。直ぐに冒険者資格をはく奪して頂戴。そして協会のホームページにその旨を掲載して」

「承知しました!」と言い残し、広報袴田は会議室を後にした。


 八塚は深いため息をついた後、正面に座る若い男に軽く頭を下げる。


「ハヤト。ごめんなさいね。騒がしくて」


 ハヤトと呼ばれた男はニッコリ笑顔をつくり、労わるような声色で返す。


「八塚さんも大変ですね。旧世代のお守りまでして」

「仕方がないわ。仕事だから」

「俺もさっきの男の件はダンジョン配信の時にちょっと触れておきますよ。もう日本の冒険者協会とは関係ない旧世代のやったことだって」

「本当……!? トップ冒険者のハヤトにそう言ってもらえると助かるわ!」


 八塚は頬を紅潮させ、本当に嬉しそうにした。


「冒険者全体のイメージアップをはかるのもA級の役目ですからね」

「ハヤトのその意識の高さには本当に頭が下がるわ」


 その後二人は「今後どのように育成を行い、A級冒険者を増やしていくのか?」について議論を交わした。そこには当然、ロマンの入り込む余地などなかった。


================================================

第四話は修正なし。実に健全である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る