第50話「墓標に舞う光」


「エレメンタル・ロンド。」


「――――――――っ?!」


濃密な死の気配を纏ったアルシアがそう呟くと、自分達を覆うように無数の魔法陣が展開された。

エレメンタル・ロンド。5属性の魔法を意のままに操る最上級魔法だ。

実はエレメンタル・ロンドを修得する事自体は難しくない。言ってしまえば、あれはただの砲台でしかないのだから……。


この魔法が最上級魔法と呼ばれる理由はただ一つ。

担い手が5属性の魔法をフルに活用し、その全てを完全な威力で発揮出来るかという事だ。

通常、人間ではどんなに修行を重ねようと、扱える魔法の属性は2つか3つ……。

魔族や亜人種、神であるならともかく、人間でそれが出来るのは5属性の魔法を全て100%で使う事が出来る魔眼の持ち主、アルシアを於いてこのファルゼアには存在しない。


「何、だよ………、こりゃあ!!」

「バケモノかよ……っ、」


後ずさりながら、エドワードとムスタが目の前の光景に呆然とする。

使用した魔法がエレメンタル・ロンドだからではない。

展開された魔法陣の数だ。

彼らを取り囲む様に展開されたその魔法陣は、優に100を超える。

展開された魔法陣を睨み、ムスタとリディアに冷や汗を流しながらマグジールが問い掛ける。


「解除出来るか……?」


ムスタが悔しさを堪えながら首を振った。リディアも応えはしないものの、俯いているのが答えだろう。


「無理だ………、魔力量が桁違い過ぎる。仮に出来たとしても、1個か2個が限界だよ……!」


エドワードは何も言わない。苦虫を噛み潰したような顔でいつ迫るか分からない魔法に備えて大盾を構えている。

そこに、ひどく冷たい言葉が投げ掛けられた。


「どうした、ムスタ、エドワード。さっきまでの勢いは何処に行った?」

「…………くそ!」


じゃり、とグレイブヤードの足場を構成する鉱石の破片を踏みしめ、アルシアが歩み寄る。

そこでムスタが魔法陣を大小5つ展開し、テンペストを発動させた。


「風の上級魔法だ!ちっとは動きを止め………、」


ムスタが全てを言い終える前に固まる。

発生した高密度の暴風はアルシアに直撃するも、アルシアが纏う黒雷によって砕かれ消失したからだ。


「嘘………。あれは………遺跡の……、」

「………っ!」


リディアが言いかけた言葉を聞いて、マグジールは確信する。

(間違いない、インドラという名の神が纏っていた力だ……!)

ただ、それとは大分様子が違う。

ムスタが焦りを隠しもせず今度は火球を立て続けに放つが、その殆どは雷で砕かれ、残りはまるで時間が巻き戻ったかのように小さくなって消失していくのだ。


「やっぱり、この程度か。お前みたいなゴミを生み出した親も大概だな……。」

「な………、おい。今何て言いやがった!」

「よせ、ムスタ!!」


ムスタが自分の家族を大事にしている事は王都でも有名だ。

家族の事まで侮辱され、挑発に乗って怒りを見せるムスタに、アルシアは鋸刃の模様を浮かべた冷たい眼を細め、続ける。


「お前への罰だ。お前の目の前で、家族の尽くを血祭りに上げて殺してやる。」

「……やれるもんなら、」

「待て、駄目だ!」

「………やってみやがれや!クソ野郎っっ!!」


挑発に乗ったムスタがマグジールの静止を振り切り、加速魔法を掛けてアルシアに迫る。

止めるべく手を伸ばすも、それは当然の様に虚しく空を切った。

それを見て、災い起こしと呼ばれた災厄は紫色の魔剣をムスタに向ける。


解放シュート。」


展開された魔法陣の一部が赤く染まり、無数の火球が放たれた。それと同時に、アルシアが駆ける。


「…………、くそ、ぉ!!!?」


迫る魔法の雨をムスタは結界を張って防ぎ、無数の爆炎がそれを覆う。

エドワード達が加勢に入ろうとするも、出来ない。

別の魔法陣が青く染まり、タイダル・ウェイブが放たれたからだ。

展開したいくつかの結界が破壊されたのを見てムスタが顔をしかめ、大槌を降るってそれを払う。

そこに、魔剣を構えたアルシアが肉薄する。


「安い挑発に乗ってくれてありがとう、ムスタ。お陰で楽に戦える。」

「調子に乗ってんじゃねえ!アルシアァ!!」


振り下ろされる大槌に、アルシアが赤熱化した魔剣で斬りかかる。


「ヒート・ブレード。」


根本の部分から槌が斬り落とされ、重たい音を立てて転がる。

転がっていく鉄塊を少し眺めた後、アルシアはゆっくりと視線をムスタに戻した。


「ひっ………?!う、うわぁああああああ!!!」


頭を落とされ、柄だけになってしまった大槌を剣のようにムスタは半狂乱に無茶苦茶に振るう。

そこには、先程までの小馬鹿にしたような態度も、余裕も無い。

振り下ろされる柄が次々と、ゆっくりと斬り落とされ、辛うじてそれが見えていたエドワードが無意識に声を漏らす。


「めろ………、」


僅かに残った柄さえ、遂に振るう程の長さも無くなる程短くされる。

この後に訪れる光景を想像して、エドワードが再び声を漏らす。


「やめろ………っ、」

「そういえば……、お前だったか、ムスタ。汚ねえ足でロキを足蹴にしたのは。」

「あ、ぁ……、あああぁぁあああああ!!?」

「やめろおおぉおおおおおおお!!」


手にした柄を投げ捨て、ムスタが魔法を撃とうとした時だった。

アルシアは手にした魔剣でムスタの両手足を無造作に両断した。


「い、いあぁあああああ!!?」


手足を失い、激痛で叫ぶムスタを冷めた目で見下ろした後、アルシアは目の前にぽつんと残ったムスタの手足をエレメンタル・ロンドで焼き消し、マグジール達に向けて連射していた魔法も止め、睨む。


「次は誰だ?」


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