第34話「作戦会議・3」


「話が少し逸れちゃったし、戻そうか。これからの作戦を決めていこう。まずはスルト。君には時期が来たら合図を送るからファルゼア城に潜り込んで、ある情報を流してほしい。」

「どんなだ?」

「魔王ロキが大病を患い、余命幾ばくかとなっている、とね。方法は任せるよ。」

「……薄々気付いちゃいたが、やっぱりお前、死ぬつもりか。」


ロキが先程、トートとの会話でぼかした部分をスルトが指摘すると、ロキは気にした様子も見せず、「うん。」とあっけらかんと頷いた。


「遅かれ早かれ、ボクが死ぬのはもう確定したからね。ここからは時間の勝負だ。ボクが殺されて大規模侵攻……、グレイブヤードの緊急防衛機構が起動する前に出来る準備は全てしておく。」


自分がそう遠くない内に死ぬ事が確定してると言うのに、ロキは内に秘めた想いを抑え込んで言い切り、それを見たスルトは大きく溜め息を吐く。

こうなってはもう、何を言っても聞かないだろう。


彼はやると言えば必ずそれをやる。

出来るのであれば自決してでもだ。

その自決をしないのは単に、神という存在は自決が出来ないように作られているからだ。

世界を構成する概念や権能、役割を持っている関係上、全ての神にはそう言った自傷行為の全てにプロテクトが掛けられている。

自決が出来るのは、自分やインドラの様に感情を手にした事で零落して、管理する概念を奪われた神だけだ。


「………分かったよ、ヴォルフラムの野郎へ情報を流すのは任せろ。他には何をすればいい?」

「すまないね。合図が来るまでの間に、スルトには亜人種達に避難指示を出してほしいんだ。亜人種なら、天蓋の大樹で他の世界に避難することが出来る。それと大陸の端の方、遠方にある人里、そこに住んでる人間達にも大規模侵攻に備えるよう、伝えてもらえるかな?」


スルトは頷く。


「任せろ。他には?」

「ボクが死んだ後、遺体の封印を。遺体の封印場所は天蓋の大樹の最上階。隠れて封印するには打ってつけだ。まあ、死ぬとは言っても意識と力の大元はこの身体に移すから、完全に死ぬわけじゃないけどね。」

「気になったんだがその身体、もし見つかったらどうすんだ。戦えねえんだろ?」

「この身体は隠蔽に能力の殆どを振ってるからね。目の前に出るでもしなければ気付かれないよ。」


言うと同時に、ロキの姿が消え、力も完全に知覚できなくなる。

なるほど。たしかにこれなら見つかることは無いのだろう。

自信の状態を戻しながら、ロキはトートの方を見た。


「トートはボクの遺体の隠し場所に開示情報制限を設けてくれ。仮に見つかるにしても、時間はそれで稼げるはずだ。」

「分かった。後は何かあるかね?」

「今のところそれだけで大丈夫だよ。何かあれば、その時に追って伝える。」

「ロキ。フェンリル達とアルシアはどうするんだ?」


トートとの会話を終えるタイミングを見計らい、スルトはアルシア達の事を聞いた。恐らくは悪神討伐という、一番大事な役割を任されるであろう、4人のことを。


「フェンリル達には、悪神の事を伏せた上で大規模侵攻に備えるよう話す。アルシアは……、ボクがヴォルフラム達の手にかかるだろうタイミングで適当な強さの暴走魔族討伐の依頼をして、グレイブヤードからは遠ざける。アルシアにはボクが死んだ後、フェンリル達と共に大規模侵攻に備えてもらわないと。」


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