第29話「エギルの村、到着」
二度寝から目覚めると、ニーザは既に起きてベッドから出ていた。
また大人の方の姿に戻っていたが……。
着替えて準備を済ませていたニーザに、ジト目を向けながら口を開く。
「今度から夕方になったら入口に結界を張るからな。」
「………何故かしら?」
「ひっ……、」
ドス黒い魔力の圧を纏いながら、殺気を込めた声で問われ、思わず情けない悲鳴が漏れた。
(やばい……、めっちゃ怖い……!)
しかし、ここで引き下がれば面倒な事になりかねないので頑張って食い下がる。
「また裸見せられたり一緒に寝るのが恥ずかしいからだよ!」
「いいじゃない、別に。」
「よかねえ!毎回あんなんやられたら心臓破裂するわ!!」
「……ちっ。やっぱり押し倒して既成事実作るしかないかしら。」
「え、やだ。怖いからやめて?」
本気でやりかねないので隠す様に自分の身体を抱くが、ニーザは昏い笑みを浮かべて俺を見つめるだけだった。
◆◆◆
その後、朝食を済ませて俺達は村を出た。行き先はヴェルンドから南東にある廃村、エギルの村である。
ニーザは昨日ここに来たように腕を恋人の様に絡めてくるが、宿屋の一件を考えると全然可愛い方なので気にしない事にした。
腕にふよふよと何か当たってる気がしなくもないが……、うん、気にしない。
「それにしても、魔法の効かない魔族、ね……。やっぱり神衣でも纏ってるのかしら?」
「やっぱりそう思うか?」
何となくという感じで呟いたニーザにそう聞くと、ニーザは「ええ。」と頷いてから考えを話してくれた。
「結界かとも思ったけど、あの後ガウフに聞いてみたらそうでも無さそうだったの。そもそも、仮に結界の類だったとしても、よほどの強度じゃなきゃドワーフ族なら難なく壊しちゃうわよ?」
「だよな……。それに、ドワーフなら強力な魔道具を使って結界ごと魔族を吹き飛ばす事だって出来る。それも加味して考えると……、」
「神衣の可能性も捨てきれない。問題は魔族が何でそれを纏ってるかだけど………。」
ニーザは絡めた腕を離すと、黒く光る錫杖を取り出して前方を眺めた。
血のように赤い瞳は今回の目的地、エギルの村を見ている。
遠目からでも、村の中に大量の魔族がいるのが分かる。
俺も鎖とアダムの書を構えて戦闘準備に入ると、ニーザは妖しく微笑えみ、前を歩き出した。
◆◆◆
「グルルルルルル…………ッ」
村に入ってすぐ、物陰や崩れた家などから暴走した魔族が続々と現れ、侵入者である俺達へ威嚇を始めた。
村に入る前に見ていたから分かってはいたが、やはり夥しい数だ。
火山地帯適応型のスライム、ゴブリン、コボルト、ガーゴイル、ワイバーン、オーク……、ちらほら上級もいるが、たぶん10もいないだろう。
俺は手に魔力を集め、視線を魔族に向けたままニーザに話しかける。
「試しに先に一発やってみる。あとはお互いに好きに動こう。」
「分かったわ。巻き込まれないようにしなさいよ。」
「分かってる。」
それだけ答えて、魔族に向けてスルトに教わった技の1つ、震雷を放つ。
震雷は土魔法で生み出した鉱石を高圧縮して、それに雷を纏わせて撃ち出す魔法だ。
威力と貫通力、速度は折り紙付きで込める魔力次第ではこれ1つ撃ってるだけで、大群だろうと大体の魔族は倒せる。
撃ち出された弾丸は目の前の魔族に高速で迫り、その身体を貫く………、事も出来ずに魔力となって霧散していった。
(………決まりだな。)
俺の攻撃を合図に、村を支配する神衣を纏った大量の暴走魔族は咆哮を上げながら俺達に迫ってきた。
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