生きる・きた ‐ パート4(日本語)

「…出血…?」


 ああ、そうだ…出血している。


「待って――」


 僕はショックでぼんやりした意識を振り払う。


 自分の血が川のように流れているのを見て、ただ立ち尽くすなんて愚か者のすることだ!


 刺されたんだ。背中の痛みがそう告げている。でも誰に?どうして?


 雨のせいで視界がぼやけるが、なんとか振り向いて確認する。ほとんど転びそうになりながら。そこには、多分僕と同じ年か、少し年下の少年が立っていた。制服を着て、震える手にナイフを握りしめ、狂ったように息を荒げている。


 憎しみに満ちた目で、僕を見つめている。


「…どうして…」


 彼がナイフを持っている…つまり、刺された傷口を塞ぐものがないってことだ。まずい、本当にまずい。


 出血している事実が頭から離れない。そして、痛みが信じられないほど酷い。泣きたくて仕方ないが、何かが僕を引き止める。


 そうだ、父との訓練には意味があったんだ。こんな状況で少しでも冷静でいられるのは、そのおかげだ。父が「受け身の練習が足りない!」と言って、僕を何度も肩越しに投げたあの時間が。


 彼が教えてくれた足払いも、肩投げも、関節技も、そこから抜け出す方法も全て。この僕が、彼の教えを無駄にするわけにはいかない。ましてや、そばには女の子がいるんだ。


(もっと気を配っていればよかった!)


 でも、もう不満を言っている暇はない。


 彼が再び走ってきた。


 また、ナイフを両手で握りしめて僕に向かって突進してくる。


「くそっ!お前が彼女を奪ったんだ、この野郎!彼女は俺のものだ!」


 嫉妬…?それが原因か?僕なら、それを羨望と表現するだろう。たったこんなクソみたいな理由で刺されたのか?


「お前が彼女を奪ったんだ!お前を殺してやる!それからサザナミも殺してやる!お前ら二人とも罰を受けるんだ!」


 彼は僕が過去に傷つけたうちの一人だったのかもしれない…でも、ただの女の子のために本気で僕を殺そうとしてるのか?本気で?!


 待て…自分本位に考えるのは良くない。危険なのは僕の命だけじゃなくて、友達の命もだ。


 もうかなり血を失って、僕はかなり厳しい状態だ。けど彼女には…サザナミちゃんには、まだ逃げるチャンスがあるんだ。小さい頃からずっと一緒に登校してくれた、優しい彼女。確かに彼女は僕にとってかわいらしい存在だと思う。


 そうだ。彼女はただの『女の子』じゃない、サザナミだ。どうしてこれまで彼女をただの『女の子』としてしか見てこなかったんだろう?…くそっ、僕は最低な友達だ。彼女の気持ちを無視し、彼女を『女の子』としてしか見てこなかった。ちゃんと彼女に報いないと…


 くだらない理由で彼女を死なせるわけにはいかない。


 そんなこと絶対にさせない…


 絶対に!


 足が震えて力が入らない。弱っているのがわかるが、それでも前に踏み出す。


 彼が近づいてくる。ナイフが近づいてくる。


 あと一歩…ただそれだけでいい。もう少し良い位置に立ちたいんだ。頭がぐるぐるして、背中は人生で感じた中で最も酷い痛みで燃えるように痛む。


 それでも、僕は動く。


 僕は構える。

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