第15話 まだ負けたわけじゃない


「ぐはぁ!」


 カメの突進攻撃を受けて、俺は大きく吹き飛んでしまった。回転の力が加わっている凄い威力の攻撃で、今の俺の状態じゃ受けきれなかった。どこかの骨が折れてる気がする。でもミュウのためにも負けらない。負けられないんだ!


「立って! 立ちなさい、マスター!」


 今までのミュウとは違う、力強い意志を感じる。それが補助魔法として俺に伝わってくる。


「マスター、私はこの勝負絶対に負けるわけにはいかないんです。この勝負だけは……」


「……そうだよな」


 膝を立て、なんとか体を起こしていく。そんな俺に、じゃなくてミュウにシャイラが近づいてくる。少女とは思えないくらいの威圧感じゃないか。シャイラのこの勝ち誇った表情は。なんだかミュウが怯えているように見える。


「これで分かったでしょう? あなたは私に勝てないの。恋も召喚獣バトルもね!」


「シャイラちゃん……」


 負けるな、ミュウ!

 言い返すんだ!


「でも久々に会ってびっくりした。あなたも頑張ってたのね」


 今度はシャイラが聖母のような表情になって、ミュウを包み込もうとしている。


 い、いかん。いかんぞこれは。この緩急はマズい。屈服しちゃダメだ。


 ミュウの将来を想うなら、ここで意見しない方がいい。ミュウ自身が立ち上がらなければ意味がないんだ。でも……それでも俺はミュウに負けてほしくない。本意ではないが、ここは俺が助言しなくては。


 そう思ったが俺の口は開かなかった。カメが上から飛んできて、上に乗られて重くて開かなった。


『いいところなんじゃ。ギャラリーは黙って見るのが礼儀っちゅうもんじゃぞ。ほれ』


 そう言って、カメは俺の髪の毛を噛んで、俺の視線を僅かに上にずらした。ミュウが何かを言おうとしている。


「や、やっぱりシャイラちゃんにはかなわないなぁ……」


 それを聞いてシャイラは一瞬だけ満足そうにしてミュウの肩に手を掛けた。


「ふふっ、まあね。でも驚いたわ。ミュウったらすっごく成長してるんだもん。ちょっと焦っちゃった。それでも私の先生への想いが勝ったけどね」


「うん。ほんとそうだよね……」


 ああぁ、補助魔法バフが抜けていく……。


 ミュウが完全に敗北を認めてしまった。これでは一生シャイラに頭が上がらないぞ。


 ……いや、違う!


 ミュウは歯を食いしばって涙を我慢している。完全に敗北を認めたわけじゃない。これなら俺たちはまだ強くなれるはず。そうだよな、ミュウ!






 戦いはシャイラの勝利で終わり、俺たちは雑談タイムに入った。


「ミュウはこれからどうするの?」


「まずはこの町で、召喚士の登録者講習を受けようと思ってる」


「それならちょうどいいわ。私もまだだから一緒に受けない? 私も今、そのためにお金を稼いでたのよ」


「……うん、いいよ」


 へぇ、そうなんだ……って、待たんかーい!


「まだ受けてなかったのかよ! 一年前に村を出たくせに今まで何してたんだよ!?」


「なによ、いきなり召喚獣が会話に混じって。まあいいわ。ここに到着するまで困難な道のりだったの。山を越え、海を渡り、そうして昨日ようやくこの町にたどり着いたのよ!」


 俺たちは平坦な道をほぼ真っ直ぐ進んだだけなんだが……。


 間違いない。シャイラはバカだ。さっきのも素でやってたのかもしれない。でも自己肯定感の強いバカは召喚士に向いている。自信がそのまま召喚獣の力になるからな。ミュウとは正反対だ。とはいえ、なんとかしなくてはならない。ミュウの自信を取り戻すにはシャイラに勝つのが一番。さて、どうするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る