第3話 それはおやつなんですか?


「で、その送還魔法とやらをどうやって覚えるんだ? 誰かから教わるのか、それとも本か何かに書いてあるのか?」


「それはどっちでもいいんです。私が子供の頃に村に凄い召喚士のお兄さんが来たことがあって、友達と一緒にお兄さんに召喚魔法の先生になってもらって、召喚魔法を教わったんです。滞在期間がそんなに長くなかったんですけど、先生がいなくなった後も、ヤシュケーさんにアドバイスをもらったりしながら友達と一緒に頑張ったんです。その友達は一足早く使えるようになって一年前に村を出ちゃったんですけどね。私も最近になってようやく使えるようになって……」


 それで俺が召喚されたわけか。


「だから送還魔法については何にも教わってないんです。でも、先生が本を持ってて、なんとかそれを書き写したんですよ」


「なるほど分かった。ところで、召喚魔法が死んだ生物を呼ぶ魔法だったら、わざわざ送り返す魔法は必要ないと思うんだけど?」


「それは魂のバランスがどうとか……。ごめんなさい。詳しいことは分かりません」


 そう言って、ミュウが一旦離席して紙の束を持ってきた。ところどころ破れているが大事そうにしている。パラパラめくると、ミミズ文字がたくさん書きなぐってあった。汚過ぎて全然読めない。そもそも俺はこの世界の文字なんて読めないから、綺麗とか汚いとか関係ないんだが。


「それで、なんて書いてあるんだ?」


 ミュウは困ったように黙り、わざわざ椅子から降りて床にしゃがみこんでしまった。


「読めないんです。私がバカだから……」


 なるほど。予想はしてたけど、この村の生活レベルを考えれば不思議なことじゃない。恐らく識字率が低いんだろう。勉強する機会なんてなかったんじゃないか。


「それなら他の村人に読んでもらえばいいんじゃないか」


「みんな文字が読めないんです……」


 ……さいですか。村長とか教会の偉い人がいて、その人たちが知識を独占してるとかじゃなくて、本当に読めないのかよ。……ん?


「だったら、なんで紙が沢山あるんだよ。文字を書かないんだったら必要ないだろ。もったいなくないか?」


「それはヤギ用です」


「ヤギって……ヤギに食わすのかよ。ヤギは雑食だろ。残飯とか草でも食わしとけよ」


「そんなことできませんよ。紙をあげないとねて乳の出が悪くなるんです。だから時々おやつに混ぜるんです」


「ヤギの立場強い!」


 そんなの当たり前でしょ、と言わんばかりにミュウがため息をつく。ちょっと、うざい。こちとら異世界人だぞ。んなもん知らんがな。

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