第47話 不気味な新スキル

 シロガネとグリムはとある森に来ていた。

 そこはフォンスから遠く離れている。

 バルバラエの方が圧倒的に近く、そこから更に北に十キロ以上。人里離れた、怪しい森だった。


「やっと着いたね」

「うん、長かった」


 ここまでの道のりは大変だった。

 残念なことに蛇竜女帝ヴァイパーの体調が悪く、マダラの竜車が何と使えなかった。

 そのせいでここまでマジの歩き。

 体が堪えると、日々の運動不足が露呈する……訳もなかった。


「でもいい運動になったね」

「うん」

「武器は重かったけど」

「遅かった」

「ごめんって! でもそれは言わないで」


 時間だけが無性に掛かった。

 アイスのように時間が簡単に溶ける。

 その原因はニジナの移動速度問題。AGIのパラメータが低いのと、武器が重いこと、この二つが邪魔をして時間が掛かってしまったのだ。


「もう、ここまでリアルじゃなくていいのに」

「スイッチ、切り替えられないの?」

「これは無理だよ。デフォルトだもん」

「そっか。それなら仕方ない」


 正直強い装備を得る為には何かを捨てる必要があった。

 呪いの装備の弊害を直接受けたニジナは申し訳なくなる。

 シロガネはそんなニジナを想ってか、特に口を挟まない。むしろニジナの肩にポンと手をおく。


「今度は私がニジナを背負うから」


 シロガネは凄く漢気のあることを言ってくれる。

 けれどニジナはポンとシロガネの胸板を叩く。

 装備に阻まれたけど、想いは届く筈だ。


「ん?」

「届いてなかった!?」


 しかしシロガネにはピンとも来ていない。

 首を捻ると訳が分からず、変な声も上げる。

 ニジナもツッコミが冴えると、しっかり口で説明した。


「心配しなくても大丈夫だよ。だって私、新しいスキルを手に入れたから」

「えっ?」


 ニジナはまたしても新スキルを獲得していた。

 いつの間にのレベルで、シロガネは驚く。

 そんなスキルの一つをニジナは早速披露した。


「この森、ツツジヶ森はこの辺りで唯一ドリップハニーが手に入る森なんだよ」

「そうなの?」

「そうなの。でもドリップハニーはなかなか見つからない。だから貴重なものなんだって」

「へぇー」


 シロガネは興味がなかった。

 適当な返しをするも、ニジナは癇癪を起こしたりしない。

 むしろ普通はそんなものと割り切っている。


「でも、ドリップハニーには絶対条件があるの。なにか知ってる?」

「知らない」

「そうだよね。ドリップハニーは、ツツジの蜜とコーヒー豆から作られるんだよ」

「……?」


 意味不明なことを聞かされたシロガネは首を傾げた。確かに初見で聞いても理解ができない。

 しかし周囲を見回すと気が付く。

 ここに生えている木はスギとかヒノキじゃない。


「もしかして、全部?」

「うん、全部コーヒーの木だよ。凄いよね、気温が二十℃前後だからかな?」

「確か、に?」


 シロガネは分からないけど相槌を打つ。

 もちろんニジナも気が付いている、確実に理解していないことを。

 共感が薄らとしかできないがそれでもよく、シロガネとニジナは先に行く。


「ドリップハニーはツツジの蜜とコーヒー豆。二つが混ざり合って生まれる、自生の回復薬なんだって。しかも普通のポーションよりも効果が高くて、貴重だからなかなか手に入らない。けど、専門で採りに行く人は少ないんだよ」

「どうして?」

「なかなか見つからないから。ドリップハニーはヨロイグマの後を追い掛けるとかしないと、まともには見つからない……のが一般的だけどね」


 ニジナの言葉が突然止まった。

 明らかに含みがある言い回しで、シロガネはピンと来る。

 きっと新しく獲得したスキルと絡んでいるに違いない。シロガネは瞼を押し上げると、ニジナの言葉を待つ犬になる。


「ニジナ?」

「私はそれを見つけるためのスキルを手に入れたんだ。それじゃあ早速試してみるね、【探索】!」


 ニジナがそう呟くと、ボワン! と空気が震えた。

 シロガネも体の奥底、見えない何かを触られたような気分になる。

 立ち止まるニジナ。【探索】スキルを発動しているのだろうが、あまりにも不気味で変わっていた。


「今のはなに?」

「私の新しいスキルだよ。まあ見てて」

「見てて?」

「正確には私を守ってね。今探索してるから」


 ニジナはまるで動く気配がない。

 目を瞑ったまま意識を集中させる。

 シロガネは期待しつつ、ニジナに指一本触れさせないように、死ぬ気で守るのだった。

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