貞操逆転世界では男性ゲーマーは貴重らしい
AteRa
ゲーム友達
陰キャゲーマーだった俺は、カフェインの飲み過ぎと夜更かしのしすぎで貞操逆転世界に転生した。男女比が1:100くらいになっていて、女性が異常に肉食になっているというアレだ。小学生の頃にはすでに国からの支給金が出ていて、その金で自分用のコンピューターを買っていた俺は、立派な不登校ゲーマーになっていた。
ユウ:今日もお疲れ様でしたー
俺はチャット欄にそう打ち込む。俺が今やっているのはいわゆる5vs5のタクティクスFPSゲームだ。スキルがあり、高度な戦術が求められる競技性の高いゲームだった。リアルタイムの競技人口はついこの間一千万人を突破したらしく、大ブーム真っ只中だ。俺もその流れに乗るようにこのゲームをプレイしている。
明菜:お疲れー
桜:今日もありがとね!
つかさ:楽しかったです!
そんなチャットが返ってくる。しかし最後の一人、智代がこう尋ねてきた。
智代:明日、ユウさんの誕生日だっけ?
ユウ:そうですよー
智代:じゃあボイチャアプリ、解禁される感じ?
ユウ:そうですね。15歳になるので、ようやくです。
この世界では前世よりもネットリテラシーが進んでおり、15歳になるまでSNS全般の使用が国から禁止されている。だから俺は今までゲーム内チャットでチームメイトと連絡を取り合っていたのだ。どうやら他の四人は既に15歳を超えているらしく、みんなボイチャをしていた。
少し羨ましかったが、ようやく俺もそこに参戦できる。みんなでわちゃわちゃ話ながらゲームするのは、とても楽しいからな。前世ではそれにのめり込みすぎて、転生する羽目になったわけだけど。
明菜:そっか。楽しみだねー
桜:やった! ユウさんの声が聞けるんだね!
つかさ:15歳でしょ? 可愛らしい声してるんじゃないですかね?
智代:ちょっとハードル上げないであげて。
みんながわいわいとチャットに書き込むのを見守りながら、俺は再びお疲れ様と伝えてゲームを落とすのだった。
***
「お兄ちゃぁん! ご飯だよぉ!」
ちょうどパソコンをシャットダウンすると、階下から妹の声が聞こえてきた。俺は大声でそれに返事をする。
「いま行く!」
それから慌てて半ズボンを履いて(ゲームするときはいつもパンツ一丁だ)リビングに降りていく。俺の家は普通の一般家庭だが、貞操逆転世界なので母、姉、妹、そして俺の四人家族だった。俺が生まれたことにより、国からの補助金がかなり下りてきているので、生活にはそこそこ余裕があった。
「お兄ちゃん、おそぉい!」
「ごめんごめん」
「冷めないうちに早く食べましょ。今日はお母さんがウナギを買ってきてくれたから」
俺に文句を垂れる妹の由衣と、落ち着いてそう言う姉の玲菜。俺は玲菜の言葉に首を傾げて言った。
「なんでウナギなんだ?」
「だって祐二、明日には15歳でしょ? 明日からもう結婚できるじゃん」
「えっ……なんで今その話するんだ……? なんか怖い……」
この世界では男女ともに15歳から結婚が可能だ。もちろん、男は重婚が可能である。最近の技術によって近親婚でも子供に影響が生まれないように出来るので、最初に姉や妹を娶る、ってのもよくある話らしい。俺、もしかして玲菜や由衣に狙われてる……? いやでも、今までそんな素振りはなかった。どうせいつもの冗談の一つだろう。
「ふふっ、冗談に決まってるでしょ?」
「そりゃ良かった。家族に襲われるのかと思った」
「そんなことしないしない。大丈夫よ……きっと」
「きっと?」
「ううん、そんなこと言ってないわ。変な聞き間違えしないで」
俺が首を傾げると、玲菜はムスッとしてそう言った。
「ごめんごめん」
俺は思わず謝る。そもそも俺はまだ結婚とか全く考えていなかった。ゲームに生き、ゲームに死ぬことを心に決めているからな。ハーレムとか恋愛とか、一切興味がないのだ。だから姉とか妹に迫られてもそれには応えられない。まあそんなつもりはないって言うなら、それでいいんだけど。ダラダラとそんな会話をしていたら、母がキッチンからやってきて言った。
「ほら、くだらないこと言ってないで冷める前に早く食べなさい」
「「「はーい」」」
こうして今日も岩崎家の日々は平穏に過ぎ去っていく。裏で爆発しそうな性欲が潜んでいることも知らずに。
***
次の日になった。俺は15歳を迎えたので、早速SNSアプリをインストールする。そしてゲームを起動すると、既にフレンドたちはログイン状態になっていた。
明菜:誕生日おめでとー
桜:おめでと!
つかさ:おめでとうございます!
智代:ハッピーバースデー、ユウ!
俺がログイン状態になった瞬間、そんなチャットが一斉に飛んでくる。ジーン。思わず感激。まあ今までも誕生日は祝って貰ってたんだけど、前世では誕生日を祝ってくれる友人なんていなかったから、やっぱり何度祝われても嬉しく感じるな。
ユウ:ありがとう、みんな!
桜:もうSNSアプリは入れた感じ!?
ユウ:入れたよー
桜:それじゃあフレンドコード交換しよ!
ユウ:はい、いいですよ。これです→ID:xxxxxx
俺がIDを張った瞬間、ピロンピロンとアプリに通知が入る。みんなからのフレンド承認依頼だった。俺は全員分許可すると、挨拶のチャットが飛んできた。
明菜:やほー
桜:こっちでもよろしく!
つかさ:よろしくおねがいします!
智代:改めてよろしくね
俺はそれに一つ一つ返すと、今度は智代からグループへの招待URLが送られてきた。俺がそれをクリックすると既にみんなが通話状態になっていた。うわっ、ちょっと緊張してきたぞ……。俺は思わずゴクリと唾を飲み込む。グループの方でみんなからチャットが飛んできた。
智代:通話、入ってきていいよ
ユウ:すみません、ちょっと緊張してて
智代:あー、最初は緊張するよね。うんうん、よくあることだね
明菜:自分のペースで良いからねー
桜:ゆっくりで大丈夫だよ!
つかさ:いけると思ったら入ってきてくだされば、それでいいので
ああ、なんてみんな優しいんだ……! そんな気遣いして貰って、入らないって訳にもいかない。俺は意を決するとボイチャに混ざった。
「おっ、きた!」
「やっほー」
「以外と早く来てくれましたね」
「流石ユウ、思い切りがいいわね」
最初の元気な声が桜。次の間延びした感じの声が明菜。敬語で丁寧な言葉遣いの声がつかさ。大人っぽい落ち着いた声が智代、って感じか。話すとアイコンの周りが緑色に光るから分かりやすいな、これ。俺はそれを頭に叩き込みながら、こうみんなに向かって言った。
「あっ、よろしくお願いします。ユウです」
そう言った途端、みんなの声が消えた。え? どうしたんだ? バグった?
「あー、あー、聞こえてる? バグった感じかなぁ……? いきなりバグとかついてないなぁ……」
そう言って設定画面を開こうとして、智代の声が聞こえてきた。
「あっ、いや、バグってないわよ」
「そうなんですね。あー、ビビったぁ。いきなりバグったのかと思った」
しかし、みんなの反応が悪い。どうしちゃったんだろう? 俺と同じく緊張しているのかな? そう思っていると代表して智代が恐る恐る俺に尋ねてきた。
「あのぉ……もしかして、ユウって、男?」
「あっ、うん、そうですよ。俺はちゃんと男です。あっ、もしかして男だとマズいですか?」
「そっ、そんなことないッ! ……あっ、いや、男でももちろん問題ないわ」
いきなり智代が大声を出してビックリした。何だったんだ。……って、あ。いま気がついたんだけど、もしかしてゲームのプレイヤー人口って女子が大多数だったりする? そもそも男が少ない世界だ。それでも前世からのゲームと言えば男ってイメージがあって、ゲームのプレイヤー人口は男に大きく傾いているものだと思っていた。しかしゲーム人口も逆転しているとすれば……?
「あの……もしかしてゲームプレイヤーって女性が大半……?」
「そう、ね。男の子はかなり少ないわね……。いえ、ほぼいないと言っていいわ」
俺の問いに、智代はそう肯定するように言うのだった。
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