第32話 決着 勇者VS魔王(?)
それは一瞬の違和感。
気がついたのは、本人であるセリカ。それと、シロウとナインマンだけだろうか?
僅かだが、セリカは膝から抜け、体が沈んだように見えた。
「疲労。あるいは────」とナインマンの言葉にシロウが被せる。
「負傷をしている。おそらくは、足首か、手首・・・・・・もしくは両方」
(流石に誤魔化すのも限界が来ましたね。おそらく、アーサーも────その目は間違いなく気づいていますね)
アーサーのが見開いている。
明らかな勝機。 罠の可能性は薄い。
・・・・・・いや、罠だとわかっていてもアーサーは、攻め込んでいただろう。
なぜなら、彼は勇者であり、冒険者だ。 リスクが高い賭けでも、彼は冒険する。
「弾け飛べ、セリカ! これで終わりだ!」
今までも手加減のない全力の剣撃だった。 しかし、今回のは違う。
隙だらけとも言える大きなフォーム。そこから繰り出される不自然なほどに力を込めた一撃。
アーサーの剣撃にセリカも応じる。
両者の武器がぶつかり合い、打ち負けるのは────やはり、セリカだった。
武器は彼女の制御を失い、後ろに弾かれる。 セリカ自身の体は、今度こそ膝から力を失い────
────いや、違う。
武道武術の極意には『膝を抜く』という動作がある。
セリカは、それを文字通り行い、後方に弾かれた武器を握り直した。
そのまま────アーサーから受けた攻撃の衝撃に逆らわないように、体を半回転させてからの、
『回転斬り』
勝利を確信していたアーサーに取って、意識の外からの攻撃。
防御ことも、回避することも、もちろん打ち返すという動作すら叶わなかった。
「なにそれ? 卑怯じゃねぇのか?」と彼は攻撃を受けた。
アーサーは全身がバラバラになったかのような衝撃に襲われ、仰向けに倒れる。
「卑怯? なんの事ですか? たまたま、戦闘中で私とあなたの攻撃が同じ所を狙っていて、最後にズレただけでしょ?」
彼女は最初から、武器のぶつけ合いで力比べ・・・・・・維持の張り合いで勝負していたつもりはない。 そういう意味である。
「よくも、ぬけぬけと・・・・・・まぁ、良い。 俺は『勇者スキル』ってのを使っていた。それ異常に仲間たちって強い力に頼って戦った。それで負けたのだから、悔いはない」
それは暗に、「俺は仲間と共に戦った。お前と違ってな」と言っているようだった。
「良いでしょう。元より、袂が分かれた者同士。これで因縁も水に流して別れましょう」
「ふん! 俺の命を奪わないのか? お前、魔王なんだろ? なんとなく・・・・・・いや、俺の中にいる勇者が教えてくれた」
「魔王? 知りませんね。 私の中には、あなたみたいにイマジナリーな存在はいませんから」
「ふっ、最後に笑かすな。 ついでに聞いておく。お前・・・・・・どうやって、短時間でそこまで強くなった?」
セリカは少しだけ考えて。
「決まってますよ。毎日、命がけで新鮮な食材を入手して、健康的な食生活を実践していましたからね!」
今度こそ、アーサーは人目を気にせず、笑った。 それは、もう・・・・・・大爆笑だった。
「いいねぇ。人間らしい生活が強くしたって事か? あいにく、普通の人間は狩りをして食べるなんて非文明的な生活はできなくなってる。けど────参考にはさせてもらうぜ」
「では、さようなら。もう二度と会うことないでしょうけど」
「あぁ。さようならだ。もう二度と会うことない」
この両者の言葉は、短期間で覆る事になるのだが・・・・・・それはもう少し先の話だ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
「さて、シロウ。次はどこで、何を食べにいきますか?」
「そうだな・・・・・・結局、北の国境は越えれなかったからなぁ。もう一度、北を目指してみるか」
そんな2人の様子をナインマンは、どこか遠い過去を思い出すように見送ろうとしていた。
「よっ!」とシロウが最後に寄っていく。
「最後に聞いておく。俺よりも長く生きてるナインマン・・・・・・かつては『勇者の師匠』と言われ、知らぬ者がいなかった伝説の存在・・・・・・」
「何を大袈裟な。今じゃ歴史に忘れられ、しがないギルド長のナインマンだよ?」
冗談混じりに言うナインマンであったが、シロウは────
「あいつ・・・・・・セリカ・イノリは、本当に魔王になると思うか?」
「・・・・・・」と2人は無言でセリカをみた。
「・・・・・・君は、本当に彼女が魔王の生まれ変わりだと信じているのかい?」
「・・・・・・ふっ、すまない。 仮にそうだとしても、問題はないな。セリカが魔王なら、世の中は少しだけマシになるだろう」
こうして、セリカとシロウの珍道中は、続いていくのだった。
つづく(?)
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読者の皆様へ
これにて第1章は完結になります。
第2章は未定(大まかなストーリーラインは決めています)。ここで、物語を一旦、閉じさせていただきます。
要望が多ければ、続きを書いていきます。
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