まだここからでも戻れるよ
本日2話目です。
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僕は今、
生寄と一緒にいると、消失感が綺麗さっぱり消え去る。
やはり、まだ僕は未練タラタラらしい。
まあ気付くのが遅すぎたけど。
でも、今日は生寄と会って話せて、良かったと思う。
最後にたっぷり話せたことで、少しは区切りがついた。
しかし、今の恋人とはどうするべきだろうか?
別の女性、しかも元カノに未練がある状態で別の女性と付き合うのはどうかと思う。
だけど、自分勝手な内容で別れるのも違うし……
僕が未来のことに思いを馳せていると―――
「ねえ、こっちの路から行かない?」
「え、うん。いいよ」
反射的に了承してしまったが、凄く裏路地っぽい狭い路地だ。
汚い訳ではないけど、少し不気味だ。
だけど、これで最後なんだ。
最短ルートで行かなくてもいいじゃないか。
「それにしても、生寄はずっとどこにいたの? 両親にも連絡してなかったらしいし」
もう直ぐ駅―――のはずなので、ずっと気になっていたことを訊く。
最初からこの質問をするのは少し憚られたし、機嫌が悪くなると嫌なので最後まで訊いてこなかった質問だ。
「貯金崩しながらバイトして、安いアパートで暮らしてたよ。自分を見直す機会が欲しかった。区切りを付けたかったんだよ」
「そっか……」
沈黙が降りる。
僕としては、僕のせいで生寄は失踪したと言われたようなモノだ。
正直、かなり気まずい。
逃げるようで悪いけど、ここは明るい話題を出す。
ホント逃げてばっかだな、僕は。
「それじゃあ、生寄の新しい彼氏さんってバイトの先輩?」
「ううん……彼氏なんていないよ」
「は?」
僕が尋ねると、生寄は和やかな笑みでこちらを見つめてくる。
以前見たことのある、貼り付けたニセモノの笑顔で。
僕は、ひどく嫌な予感がした。
「……で、でも、新しい彼氏ができたって言ってたじゃないか」
「颯太くんを呼び出すための嘘だよ。そうでもしないと、颯太くんは来てくれないかもでしょ?」
「…………」
僕は、否定することができずに言葉が詰まる。
確かに、生寄が新しい恋を見つけたことを知らされていなかったら自分が傷つくのも、生寄を傷つけるのが怖くて来ていなかったかもしれない。
いや、後者は逃げだろう。
そして、僕は遅きながら気付く。
―――この路地は、行き止まりだ。
僕の背筋に悪寒が走る。
嘘で呼び出され、路地裏に連れ込まれ、行き止まりに追い込まれる。
嫌な想像が、僕の頭を支配する。
「い、生寄。ここは行き止まりだけど……?」
「おかしいな。前来た時は行き止まりなんかじゃなかったのに……」
自然な様子で、本当に困惑している様子で紡ぐその言葉が、怖い。
「じ、じゃあ、引き返えそうか。駅からじゃないと帰れないしね」
僕がそう言うと、生寄は心からであろう美しい、されど恐ろしい笑みを浮かべ―――
「大丈夫、ここからでも帰れるよ。2人で楽しく過ごしてた、あの時間に―――」
生寄が、満面の笑みを浮かべ―――
突如、視界の生寄が大きく動く。
気付くと、ゼロ距離まで接近されていて―――
「あ゛ッッ―――!?」
腹部に、焼けるような激痛が走る。
なにがおきたかわからない。
なにが、なにが……おきた……んだ?
段々と、何も考えられなくなっていく。
段々、焼けるような痛みは寒気に変わっていき―――
僕の意識は、そこで眠りについた。
そして、二度と目覚めることは無かった。
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次話で完結です。
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