幸せの終わり





 僕は、俯きながら呟く。




「こんなの、僕が好きになった生寄じゃない」




 なにかに飲まれた僕は、呟く。


 普段なら絶対に発しないであろう言葉を、発す。




「こんなの、僕が好きになった生寄じゃない!」




 今度は叫ぶ。


 僕は、言葉を続ける。






「僕が好きになった生寄は、もっと自由で、明るくて、輝いてて……なにより、一緒にいて楽しかった」




 一度吐き出してしまったら、もう止まらない。


 吐き出すように、いままで押さえ込んでいた感情が流れ出す。




「なあ。もとの君に……僕が好きなったときの僕に戻ってくれよ……」




 全て吐き出してから、自分がなにを言ってしまったかに気づく。


 ハッとして顔を上げ、生寄の顔を見ると―――




「うん、分かった! 颯太くん、これからもずっと一緒に過ごそうね!」




笑っていた。



 和かに。



 美しく。



 優しく。




―――出会ったときのように。




「っ―――」


「どうしたの? 颯太くん」




 僕は、彼女の微笑みに、仕草に息を呑む。


 僕と生寄が、まだ友達だったときと全く同じの笑みを―――貼り付けている。


 明確な根拠がある訳ではない。


 でもなんとなく分かる。


 あの笑みは偽物だ。




「颯太くん、今日はなにする? カラオケ? ショッピング? 遊園地?」




 僕の動揺など知らずに、生寄は平然と言葉を続ける。




「……ごめん、今日は少し体ちょ……いや、遊ぶ気分じゃなくてさ」





 体調が悪いと言い訳しようとするが、看病されるなどと言われると困るので言い直す。




「……そう。じゃあ、ワタシはもう帰るね」


「うん。呼び出したのにごめん」


「ううん、大丈夫」




 そう言って、生寄は立ち上がると「またね」と言って帰っていく。


 僕は、生寄が帰ったことを確認するとベットに仰向けで寝転がる。




「もう、戻れないのかなぁ」




 その呟きは、誰も聞くことはなかった。





♢♢♢





 それからの生寄は、僕と出会う前のようだった。


 元々仲良かった友達と遊び、時々僕と遊び―――


 それが僕には、恐ろしかった。


 自分でも、少し過剰に反応しているのは分かっている。


 でも、一度彼女の性格を認識すると、身体が反応してしまう。






―――僕はもう、彼女のことを愛おしいとも、可愛いとも、一緒にいて楽しいとも。




―――思えなくなっていた。





♢♢♢





「なあ生寄。僕たち別れよう」


「…………」




 生寄は、僕の提案を聞き呆けたような表情になる。


 その後、絶望した表情に変わり―――




「な、んで……」




 今にも消え入りそうな声で呟く。




「僕はもう、君といて楽しいとも、愛おしいとも思えないんだ……」




 それに、このまま一緒にいても、2人の為にならない。


 僕は、生寄と一緒にいても苦しいだけだ。


 生寄も、僕とこれ以上一緒にいると更に僕に依存してしまうだろう。


 これ以上依存してしまうと、きっと生寄の人格にまで影響を及ぼしてしまう。いや、もう及ぼしているかもしれない。




「な、んで……なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで!?!?」


「…………」




 絶叫する彼女から、僕は目を背ける。




「ねぇ、なにがダメだったの……? ワタシの何がダメだったの……? 教えてよ。ねぇ。治すからさ。悪いところは治すから。お願い。見捨てないで。ワタシのことを捨てないで……お願い……」




 段々と声は小さくなっていき、最後には消え入りそうな声になってしまう。




「君は、なにも悪くないよ。僕と君の性格が元々合ってなかっただけだよ」


「そん……な……」




 絶望する彼女に、僕は言葉を告げる。





「もう、帰ってくれ」




 僕が言うと、彼女はふらつく足取りで去っていく。


 不安になる足取りだったが、今の僕にはそんなことを気にする余裕はなかった。










 翌日、僕は大学に行くと生寄の様子が気になり探してみたのだが、見かけなかった。


 その後知ることなのだが、生寄は退学届を再び提出し、大学を去ったらしい。





 これ以来僕が生寄に会うことは無かった。











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