第30話 初体験
夜も遅くなってきた頃、仁志とさなえはプールから出て併設されているホテルへと向かった。
仁志とさなえは同室に泊まることとなっていた、フロントで一緒に鍵を受け取り、指定の部屋まで向かう。
エレベーターにて、仁志とさなえが2人きりになる。
「プール楽しかったねー」
「まあな。ウォータースライダーとかも中々面白かったな」
「ライトアップもキレイだったし、またこういうところに来たいね」
女装子がプールに行くというのも中々に難しい問題がある。
着替えの場所もそうだし、水着は体型が出やすいから性別バレが起こりやすい。
仁志は郁人と一緒にプールに行くことはできても、さなえと一緒にプールに行くのは中々に難しい。
今日という日はかなり貴重な日なのである。
そんな貴重さも仁志は理解していた。だからこそ、仁志は今日こそ絶対に決める。やるんだと強い思いを抱いていた。
エレベーターを降りて鍵に書かれている部屋番号の部屋まで行く。
その部屋に入ると中はキレイな洋室であった。窓の外からは夜景が一望できて、恋人同士がここで泊まるとそういう雰囲気になりがちなものである。
「ふう……疲れたし、先にシャワー浴びてきて良い?」
さなえが仁志に何気なく訊く。仁志はその言葉にどぎまぎとしてしまう。
「え、あ……! え?」
「んー? 風見君。また、えっちなこと考えてんじゃないの?」
「ま、またってなんだよ! 俺は1回もえっちなことなんて考えてないぞ!」
仁志は否定をする。この言葉はもちろん嘘であり、さなえもそれはわかっている。
「本当かなー?」
さなえは目を細めてからかうように仁志の顔を覗き込んだ。
「な、なんだよ! そんな挑発するなら本当に襲っちまうぞ!」
仁志だってやられっぱなしではない。ここで強めに言ってさなえをけん制してみる。
「きゃーこわーい。襲われないうちにシャワー浴びちゃおっと」
さなえは部屋に備え付けられているシャワールームへと向かった。
仁志はさなえがシャワーを浴びている間、テレビを付けて待っていた。
今、さなえは全裸でシャワーを浴びている。しかし、全裸ということはそれは男の娘なのだろうか。
今はさなえではなくて、郁人ということになり、仮にシャワーを覗いたとしても見れるのは男の娘の体ではなくて男の体。
さなえの裸なら覗いてみたいけれど、郁人の裸は別にそこまで除きたくはない。
となると、男と男の娘の境界線はどこにあるのだろうか。そんな哲学的なことを仁志は考えてしまう。
ガチャっとシャワールームの扉が開く。さなえの鼻唄と共に衣擦れの音が聞こえてくる。
しばらく待っていると、さなえはきちんと女装して戻ってきた。
「シャワー空いたよー」
「ああ……というか、夜でもその格好なのか?」
別に部屋の中でくらい郁人に戻っても良いのではないかと仁志は思っていた。
しかし、さなえは仁志の元へと歩き、耳元でささやく。
「今夜はこの格好の方が風見君に愛してもらえるでしょ?」
「うっ……」
破壊力のあるセリフに仁志の心は撃たれてしまった。
ここで決めないと男じゃない。仁志はそう言い聞かせてシャワールームに向かった。
仁志は特に股間部分を念入りに洗い、いざ出陣!
さなえはベッドに腰かけていて、仁志の姿が見えると立ち上がった。
「……」
さなえは無言で目を閉じた。そして、唇を少し突き出してキス待ちの顔をする。
ドクドクと仁志の内側から鼓動が溢れ出てくる。口から心臓が飛び出るくらいに緊張している。
希子ともしたことがなかったキス。それを仁志はさなえ相手にしようとしている。
仁志も無言でさなえに近づき、そして肩に手を置き抱き寄せる。
仁志とさなえ。2人の唇にやわらかい感触が伝わってくる。ほんの少し湿り気を帯びていて、それがどうにもエロティックなように感じる。
唇に今まで感じたことがない熱のようなものを感じていた。
熱い料理を食べた時よりも情熱的なこの感触は、心の中の本能が燃え上がるようにたぎってくる。
仁志はさなえの背中に手を回す。さなえを抱いてから、“彼女”をベッドへと優しく押し倒した。
「さなえちゃん……その、俺初めてだから上手くできるかわからないけど、痛かったり嫌なことがあったら遠慮なく言って欲しい」
「うん……ありがとう。風見君は優しいね」
さなえが期待の眼差しで仁志を見ていた。仁志はその視線にプレッシャーを感じながらも、立つものはしっかりと立っていた。
若い男子が好きな相手とキスをしてこうならないわけがない。
仁志はさなえの着ているブラウスを脱がしてく。他人の衣服を脱がす経験などほとんどない仁志はぎこちない手つきながらもボタンを外してく。
「んっ……」
さなえの頬が紅潮する。ブラを見られてしまう。仁志はそのブラをじっくりと観察をする。
黄緑色のブラはどこか元気で活発そうなイメージを与えてくれる。そのブラを仁志は視覚的に十分楽しむ。
「そんなじろじろ見ないで」
「見て欲しいからこの下着を選んだんだろ?」
「もう……いじわる」
仁志はさなえのスカートに注目してみた。スカートの一部分がやけに盛り上がっている。
これはスカートをめくらなくても、さなえのどの部分が自己主張しているのかわかってしまう。
見た目は女の子でも、性別はしっかりと男性であるさなえ。性的に興奮してしまえば、それがシンボルに表れてしまうのである。
仁志はさなえのスカートの裾に手をかけた。
「さなえちゃん。ここめくっていい?」
さなえは黙ってコクっと頷いた。仁志がスカートをめくると……
とても放送では見せられないようなものが見えてしまった。
モザイク必須のなにかが見えてしまい、ここからの展開はとてもじゃないけど書き記すことはできない。
ただ、確実にわかることと言えば、2人は熱い夜を過ごしたことだけである。
◇
仁志とさなえはお互いに寄り添って寝ていた。
仁志の枕元には、仁志が持ってきた時は未開封のゴム製品。それが開封済みとなったものがあった。
「……ねえ、仁志。僕たちもう戻れないところまで来ちゃったね」
さなえは自分の手指を仁志の手指に絡める。
「ああ。仮に戻れたとしても、もう戻す気はないけどな」
「……うん。僕も普通の男子には戻りたくいないと思っている。この沼から抜け出す気はもうないよ」
さなえはあえて一人称を僕にしていた。意識を半分郁人のものにして、この状況を語っている。
「どうする? 僕たちの関係。学校のみんなには言うの?」
「別に言う必要もないだろう。この関係は俺と郁人とだけで共有していればいい。まあ、強いて言えばHoney Potの人達に相談に乗ってもらうことはあるかもしれないけど」
さなえはにやにやと笑っていた。
「そっか。2人だけの秘密の関係か。ねえ、仁志。仁志もひとみちゃんになって戻れないところまで行ってみる?」
「お、おい。それは勘弁してくれ。童貞は捨てたけど、処女は捨てるつもりはないぞ」
仁志は恐れおののいてしまう。ひとみの状態で、もしそういうことをしてしまったら……一生戻らないなにかを植え付けられてしまうような気がする。
「えー。でも、お店の先輩たちは、お互いが女装してやったことがあるけど、すごかったって言ってたよ。どうすごいのか僕たちで体験してみたいとは思わない?」
「お、思わねーよ!」
「えー。ずるいなあ。僕だって処女を捧げたんだから、仁志の処女をくれたっていいじゃない」
「絶対にやらん」
仁志は首を横にぶんぶんと振った。さなえは少し不満そうに口をとがらせていた。
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