第4話
「やぁおはよう。」
目を開けるとそこには昨日の男、水篠の姿があった。
「おはようございます。」
ニコリと微笑みを返す。人々が目覚め活動し各々職場や学校と向かう時間。高さも値段も高いホテルの最上階の一室で水篠という20代前半くらいの男が私に馬乗りに乗りかかっている。傍から見れば色々勘違いされそうな現場だ。
だがそこには1つ、明らかに平和では無いものがあった。水篠の手には小刀が握られている。それは私に向かって振り下ろされており刀身を握りギリギリのところで肉に当たるのを避けている。私の手からはボタボタと血が流れ鈍い痛みが脳を貫く。
「君の集めた私の情報について話したいところですが時間が無いようですね。」
「え?」
困惑する水篠を蹴り飛ばすと何も来ていない素肌に素早く布を着せ血が流れていない手でコートを取り逆の手で水篠を抱えた。
「あの〜僕に血がついてるんですけど…?」
「寝込みを襲った貴方が悪いのですよ。」
私はそう言うと窓際に立った。チラリと軽く後ろを見ると黒い嫌な正方形の箱がベッドの下にあった。布団に隠れそれは逆方向からでは見えない。
そのまま時計を見る。私が目覚めてから5分が経過するまであと5秒だ。
「5,4,3,2…1!」
それと同時に私は水篠を抱えたまま予め切込みが容れられ開きやすくなった窓に突進した。窓を突き破り床という支えの無くなった空中へと飛ぶ。次の瞬間、先程私たちが居た場所が勢いよく爆発した。爆風で私達の体が落ちる速度が増す。
「着地の算段はあるのでしょう?早くしないと君も死にますよ?」
自由落下する中で片手で抱えた水篠に声掛けた。
「ハハッ…君本当に面白いね。」
1秒…いや、5分前の私の様に水篠は乾いた笑い声を出した。
私たちの体が地面に叩きつけられ粉砕する…そのギリギリで私たちの体はピタリと止まった。重力干渉を一切無視した規格外の事だ。
「重力…もしくは質量などの機能者の仲間ですか…。」
ストン、と1度勢いを殺し勢威した体はその後しっかりと地面に接し私は大地を踏んで立ち上がった。見ると通勤、通学中の若者から老人が突然爆破したビルと降ってきた私達に釘付けだった。
「水篠さん!!」
ザワザワと賑わう野次馬をかき分け1人の青年がやってきた。十代真ん中くらいの平均身長、平凡な顔立ちをした黒髪短髪の素直そうな男の子であった。
「大丈夫ですか?まさか標的に抱えられて落っこちてくるなんて…」
この口調から恐らくこの人物は万事屋、水篠の部下だろう。私は神経を辺りの野次馬に集中させた。
周りの心音、気配、声音、話す内容、心音、足音の全てに注意を払ったが恐らく万事屋の者はこの2人だけであろう。
「いやいや…まさか起きた瞬間に情報把握して僕が外に脱出手段を用意していると踏んで僕を抱えてビルの20階から飛び降りるなんて…。」
水篠は呆れたような、驚いたような声音で言った。のびーと背伸びをし心配そうにする青年にピースをしてから私に向き直った。
「今のは君の機能だね?」
スッ、と水篠の目が静かに暗く、恐らしいものへと変わった。そしてその瞬間に私も同じような目をして笑っていたのだろう。私は包み隠さずその問いかけに答えてあげた。
「はい。これは私の機能"私が死ぬと世界時間が5分巻き戻る"能力です。」
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