甲蟲転生 ~虫モチーフのヒーローが好きだとは言ったけど、虫にしろとは言ってないよォ!!森を出ましたが、ボクの無双はいつですか!? ~
第90話 二つ名とか憧れるよね、男の子だもんね……性別不明だけど。
第90話 二つ名とか憧れるよね、男の子だもんね……性別不明だけど。
「っふ!」
空気を切り裂いて、木でできた斧が飛んで来る。
「オワワ!?」
なんとかそれを躱したら――躱した先にもう1本が!?
「ギャオン!?!?」
ものの見事に顔面に激突した……あんまり痛くないけど痛い!!
「はいよ、詰みだ」
目を一瞬閉じて開けたら……首に添えられた手刀。
若干モフモフだけど、鋭い爪が首に食い込んでる!食いこんでる!
「マイリマシタ!」
「自分で言っといて何だが諦めが良すぎるぜ、お前」
降参すると、手刀の持ち主のターロが呆れたように言った。
だってこれから逆転できる気がしないんだもん……
「次はアチシニャー!」
「チョット休憩サセテ……」
やる気満々のミーヤを手で制し、ボクは訓練場の地面に腰を下ろすのだった。
今日は、祭10日目。
残り丸2日とあって、こうして衛兵隊本部にいても遠くから賑やかな歓声が聞こえてくる。
参加できないのはちょっと残念だけどね、お仕事お仕事。
現在はお昼過ぎ。
昼食をとってアカとお昼寝して、腹ごなしついでにこの訓練場に来ているってわーけ。
ここは学校の体育館って感じの空間になっていて、ぶん殴る用の木人形とかが配置されている。
それに、木でできた各種武器類とかもある。
昨日までは衛兵さんたちも参加してたけど……今日は別の所でお仕事らしく、ボクらしかいない。
そう、訓練しているのはボクとターロだけじゃなくて……
「にゃっ!」
「っしぃい!!」
がぎ、と木がぶつかる音。
早々とケリの付いたボクとは違って。
マーヤとロロンが白熱した打ち合いを続けている。
「にゃあっ!」
距離を取りつつ、短めの木の棒を続けざまに放つマーヤ。
「っふ!っは!でぇえあっ!!」
それを、いつも使っているくらいの長さの木槍で叩き落としているロロン。
あんなに長いのに……まるで扇風機みたいにぶん回すじゃん。
「きばりやす~」「がんばえ、がんばえ~!」
アカと、彼女を肩に乗せて観戦しているラクサコさんの応援が響く中。
木の棒を捌き終えたロロンが、一気に踏み込んだ。
「にゃあっ!」
後ろに跳びながら追加の木の棒を放つマーヤ。
それを、低い姿勢で前転したロロンの背中の装甲が弾く。
弾いた姿勢のまま、さらにロロンは回った。
前世で見た青くてイカした針鼠みたいに。
「――でぇえ、りゃあッ!!」
瞬く間に急加速したロロン。
マーヤの足元まで到達し、凄まじい速度で槍を跳ね上げた。
「みゃっ!?」
跳ね上がった槍の穂先が、マーヤの足を払う。
上体を崩した彼女はネコ科の猛獣みたいに姿勢を制御して倒れ込まないようにしたけど……足を払った槍が翻って、首筋に寸止めになった。
「……参った」
マーヤが降参し、武器を捨てる。
「ありがとうござりやんした」
少し汗をかいたロロンが、槍をどかして礼をした。
「アルマードの武術ってのはすげえなあ。ああまで姿勢が低くちゃ、やりにくくってしょうがねえ」
「下段から翻る動きがとんでもねえニャ。アレなら魔物も人も相手できるニャ~」
ターロたちが何かこう……格闘番組みたいなコメントをしている。
ボクにはすごいなあってことしかわかんない。
「おい親分、感心してるだけだと足元を文字通りすくわれるぜ?」
そう言われても……別にロロンと戦うわけじゃないし、アルマードさんたちと敵対する予定もないしねえ。
「ムークは魔物とか悪人相手じゃないと本気にならにゃいタイプニャァ。さっきの動きも、例の人族どもと戦った時とは違うと思うニャ」
あの時はいなかったのに、ミーヤの講評が鋭いですなあ。
そうかもしんない。
ああいう場だとなんていうか……必死になるんだよねえ。
「マア、ソンナ感ジカナ」
「覇気がねえなあ、オイ。本当に【大角】殿と同じ虫人なんかね、お前」
ターロがそう言うけど……ボクもそこは微妙だと思う。
っていうかボク、厳密に言えばむしんちゅでもモンスターでもない感じだしね。
どっちかといえば魔物寄りだけども。
「おやびん、れんしゅーしよ、しよぉ!」
ラクサコさんの肩から飛び立ったアカが、こっちへ飛んできた。
練習……?
ああ、そっか。
「ウン、ヨロシクネ」
マントはもう脱いでいるので、立ち上がって首を回す。
「あいっ!」
アカはボクの前で止まり、ホバリングしながら魔力を練り始める。
それを見つつ、ボクも魔力を……背中に集中。
すると、肩甲骨にコンパクトな感じて折り畳まれていた『隠形刃腕』が即座に展開。
両肩の上を通り、刃の部分が前方向へだらりと垂れ下がった。
「みゅんみゅんみゅん……」
それと同時くらいに、アカの練った魔力が野球ボールくらいの大きさの球体になった。
「いくよ~!」
「ドントコイ!」
許可を出すと、魔力球がボクに向かって突っ込んできた。
「ヌン!」
まずは右!
顔面に当たる軌道を辿ったそれを、刃で斬りつける。
魔力球はぽよん、って感じで跳ね返る。
「つぎ、つぎぃ!」
跳ね返った魔力球が再び向かってくる。
ムムム、速くなったねえ!アカも上達してるなあ!
「ヌン!」
今度は左。
上から振り下ろした攻撃が避けられたので、右を操作して背中側に回す。
そのまま脇の下を通って――刃が今度こそ魔力球をさっくり突き刺さした。
これはトモさんに考えてもらった訓練方法だ。
ボクは魔力球相手に思う存分『隠形刃腕』の扱いの訓練ができて、アカのほうは魔力操作の腕前が上がる。
一挙両得ってやーつ!!
「みゅみゅみゅ……!」
お、もう1個増えた!
いや……さらにもう1つ!合計3つ!
「ヌゥウ……!」
2本を上方向に固定し、構える。
「えぇ~いっ!」
おおお!それぞれがランダムっぽい機動でこっちへ来た!
やるねアカ!!
ならば……ボクも新技を披露せねば!
隠形刃腕は、腕より1つ関節が多い!
その先端から2番目の関節に……魔力を集中!
「ウォリャーッ!!」
両方が、ボクの思い通りに動く!
すなわち……横回転!!
ちょっとしたヘリコプターみたいになったその刃先が、飛んできた3つの魔力球を弾き飛ばした!
「しゅごい!しゅごーい!」
アカが手を叩いて喜んでいる。
ふふふ、喜んでもらえてボクも嬉し――
「ァ痛ァイ!?」
しまった!腕を近付けすぎて刃が肩を刻んだ!
とても痛い!とても!!
勢いが凄いからスッパリいっちゃった!
『……すぐに調子に乗るから……もう……この子は……』
トモさんが親戚のお姉さんを通り越してお母さんみたいになってる!
すいません!とてもすいません!!
・・☆・・
「ムークがこの先とっても強くなったとしたら、たぶん二つ名は【粗忽】か【迂闊】になるんじゃないかな」
訓練というか運動が一段落つき。
肩の傷に異世界絆創膏を貼ってくれたマーヤがそんなことを言ってきた。
「ソレハ悪口デハ?」
絶対に嫌だよ……なんで異名が罵倒なのさ。
誰にも恐れられてなさそう。
「二つ名かぁ、お前のはともかく憧れるよなあ」
地面に座り、果実水を煽ったターロが笑っている。
「んだなっす、ワダスも憧れやんす!」
ロロンもそういうの好きそうだもんね……もちろん、ボクも!
○○のムーク!とか言われたいね!
そんで、強そうな人には『よう、○○の』とか言われたいね!
強キャラ感がすっごい!
「二ツ名カ……ネエ、ドンナノガアルノ?」
赤錆のアロンゾさんとかもあったよねえ。
たしか【斬鉄】だっけ。
わかりやすいし格好いいなあ。
「ううん……そうだなあ、パッと思いつくのだと……【雷帝】に【龍神】、【月ノ輪】、それに【魔刃剣】あたりか?有名どころはよ」
全員無茶苦茶強いんだろうなあ……
「帝国だと、【剣狼】や【岩窟】、【魔刃剣】あたりはよぐ聞きまっす」
んん?なんか同じの出てない?
「【魔刃剣】ッテ人、ドッチデモ有名ナンダネ?ドンナ人?」
ラーガリから帝国というか、ロロンのお里あたりまで知られてるって地味に凄いな。
この世界、遠出するのも大変なのに。
「【魔刃剣】はかなり古くから活動している冒険者。それ以外の情報がほとんどないけど、たぶん今でも元気にしてるハズ」
謎に満ちてるね……
でも不思議。
なんでそんなに言い切れるんだろ。
「ナンデワカルノ?」
「【魔刃剣】はな、獲物の切り口がえっらい綺麗なんだよ。石切り場でやったみてえに、どんな魔物でもスッパリ切れてんだ。そういう死体がな、色んな所で出て来ることがあるんだ」
ふぇえ……こわ。
「高く売れる部位だけ取ってよ、死体は自然に返るようにバラバラにして埋めてるんだ。どうにも目立ちたくねえんじゃねえかな」
「アチシが考えるに、どえらいブサイクだから顔晒すのが嫌なんニャ!」
「私はその逆、美形過ぎて表に出たくないんじゃないかと思う」
おうおう、議論が白熱してるね……
「ロロンモ、イツカ格好イイ二ツ名ガ付クンジャナイカナア……」
「じゃじゃじゃ!?もっだいね……まずはムーク様でやんしょう!!」
ボクはそんなに好戦的な虫じゃないんだけどなあ。
とまあ、こんな感じで10日目は無事に終わった。
残すところあと2日……なんにせよ、悪いことが起こりませんように……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます