第27話 この先の落としどころ。
バイトテロの事実が知れ渡ると、それからは全員が苦しむ地獄の時間だった。
宴会に参加していたアルバイト達は例に漏れず全員がクビ。
嫌々参加をしていたアルバイト達でも関係なくクビを言い渡されてしまう。
これにより、店の穴埋めの為に各店舗の社員達やバイト達がヘルプになり、この店に駆り出される事になる。
その中には市原黄汰も居て、トレーナーとして一定期間を店舗勤務になり、バイト達を厳しく再教育する事になる。
この件で、悪運強く難を逃れたのは菅野篤志で、明らかに手口も菅野篤志で、菅野篤志から学んだとバイトリーダーは言ったが証拠はない。
今回も何も知らず、主導者でなかった事で、クビにならずに済む。
少々図太く、神経を疑ってしまうのは、激戦区に続き、任された店舗でも同様の問題を起こしたのに、自ら「辞める」とは言わない事。
これにより人員異動を行い、菅野篤志を広島紫がいるトレーニング店舗に送り込んで、徹底的に管理して、自己の意思もない単純な労働力にしてしまう事にした。
エリアマネージャーも本来なら菅野篤志を飛ばしてしまいたいが、他所のエリアから使いこなしてみせると呼びつけて、約一年で「問題を起こされたので追い出します」では格好がつかないので、なんとかする必要があった。
SNSの方は、運良くと言うのも不謹慎だが、投稿者はキチンとエリアマネージャーと菅野篤志が菓子折りを持って謝罪に行くと、目の前で一連の投稿を消してくれた。
多少デジタルタトゥーが残るが、それは今度は別の飲食店がバイトテロで炎上してしまい、更にそちらはお客様にまで迷惑をかけて、初動もミスった事で更に炎上して完全に話題が攫われてしまい、人々から忘れられてしまった。
・・・
市原黄汰の方は、SNSで炎上した件もあり、心配する市原黄介に鹿島朱美の事を丸投げして勤務する。それこそ早朝から深夜まで全時間帯に顔を出して徹底的に菅野篤志の残したくだらない痕跡を除染する。
ファミレスなら廃棄を食べられる。勝手な真似ができる。
そんなのは大きな間違いだと教え込む。
それでもなかなか浸透しないのは菅野篤志の悪影響の根深さを物語っていた。
そして、本部社員なら休みも多いと誤解されてしまうが、新しく店長に着いた社員達が休みの日も市原黄汰は本部に顔を出して、会議をしている。
市原黄汰を休んでいると悪く言う社員はいないし、バイト達にもキチンと市原黄汰はあのバイトテロの日から休まずに働いていると説明もしていた。
・・・
市原黄汰は厳しい選択を迫られていた。
社員0人店舗、0人時間はかつてもあったが、それは書類の上だけで、社員は週休1日が取れれば御の字で、大体は10日に一度、土日を避けて休み、労働時間も朝から晩まで、残業代もつかない時代があった。
本部は、またその頃に戻す必要があるのではないかと、時代に逆行してもやらなければバイトテロは無くならないのではないかという、過激だが一理ある意見が出ていた。
そして、社員が働く事で生じる人件費を店舗運営に乗せれば、今の価格を維持できなくなり、客足が遠のく負のスパイラルに陥るので、煽りは全て現場の社員達に向かう事になる。
市原黄汰としては、トレーナーの立場で、せっかく育てた社員、将来に見込みがある社員が、心身を病んで辞めていく事は見過ごせなかったし、回り回って会社のダメージになると思っていたので反対の意思を表明している。
だが、周りの意見はやはりもっともで、市原黄汰やある程度の年代を生きてきた世代なら、新しい体質でも腐らずに済むが、元々が新しい体質だと、練度も品質も下がり、菅野篤志のような社員が出てきてしまう事には市原黄汰も返す言葉がなかった。
「今回はまだすぐに鎮火した事と、他社さんが炎上してくれたから被害は少なかったが、次はないんだ」
そう言われれば、何も言えない。
だが、やはり共に働き、家庭との両立もままならなくて辞めた社員や、将来を見据えて辞めた社員、心身を壊してしまった社員を思うと賛成とは言えずにいた。
市原黄汰にやれたのは、大変だと周りから止められても、トレーナーとして各店舗を周り、キチンと弛まないように指導をして、マニュアルをより完璧にする事だけだった。
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